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03 21
2012

書評 哲学・現代思想

ハイレベルな映画解釈―『映画の構造分析』 内田 樹

4167801256映画の構造分析―ハリウッド映画で学べる現代思想 (文春文庫)
内田 樹
文藝春秋 2011-04-08

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 内田樹はブログにとてもお世話になってきたのだが、本を読むのははじめて。2001年に『ためらいの倫理学』でデビューしたらしいが、わたしは90年代に現代思想の入門書を今村仁司や竹田青嗣に学んだので、いまいち内田樹の本を読む必要に駆られなかった。

 この本はとてもおもしろかった。知的にもハイレベルの好奇心を駆り立ててくれるし、この映画はこんな見方もあるのかと新しい見方を提示してもらえる。この見方は「おお」と感嘆できるレベル。

 現代思想は「わかる」ことより、すこし上の「わからないかもしれない」のすれすれをいくことがおもしろい。自分の知的レベルで読解できない能力の上を呈示されることは知的好奇心を駆り立てる。

 ただしキレキレの映画読解はすべてほかの思想家の借り物ではないのかという疑惑をきたしたが。まえがきやあとがきでも断られているとおり、この読解はジジェクやラカン、バルト、ミシェル・シオンという思想家たちの借り物がほとんど。

 独創やオリジナルがないではないかと思うけど、日本の思想家を読むということはすでに翻訳の思想家をあれこれ読む苦労をはぶくことを期待しているわけで、この本は内田樹なりのそれらの思想を編集してもらったもの+内田のオリジナルも入っていると考えたほうがいいかもしれない。

 それにこの本は現代思想を学ぶ本なので、借り物であることはあたりまえ。まあ、それほどまでに内田樹は自分のことばで咀嚼しているのだと思う、オリジナルかどうか疑うほど。

 『エイリアン』をこんなに性的解釈で読むものとは思わなかった。わたしは『エイリアン』は企業批判だと読んでいて、リプリーたちは企業の利益のためにエイリアンの宿主にされかかるのだし、傭兵たちも「時間給ではないんだぞ」とハッパをかけられる。

 人造人間のアッシュは「白い液体」をまき散らし、リプリーは鼻血を出し、口に丸めた雑誌を押しこめられる。性的な暗喩がこめられているとはなるほどの解釈。男性の暴力に屈しない自立した女性がこの映画からハリウッド映画につぎつぎにつくられてゆくことになる。

 『大脱走』もフロイト的な「汎性論」で語られてゆくのだが、さすがにこの映画にはその解釈は飛びすぎに感じた。無意識の検閲や社会の象徴秩序からの脱出(父殺し)というテーマを読むのは納得するが。

 フロイト研究の第一人者といわれた小此木啓吾の『映画で見る精神分析』という本を読んだことがあるが、ちゃんと社会的水準で心理的問題を語られていて、汎性論というものは頻出しなかった覚えがある。ベッテルハイムもフロイト派といわれるが、おとぎ話の分析にはそこまで性的解釈をもちこまなかった覚えがある。

 人間はどんなふうに隠すのかを探ったアラン・ポウの『盗まれた手紙』と『北北西に進路を取れ』はすこし読み込むのがむづかしかった。

 カメラの目線はだれから見られた視点かと問うヒッチコックの『裏窓』を分析する章はスリリング。わたしたちは自分が見たくない記憶はだれかほかの遠くから見ている視線として思い出すことができる。記憶はツラさをやわらげる視点をもつことができるのだ。この映画のカメラはだれの視点から見られているのかと問えば、映画の巧妙なつくりに感嘆できるかも。

 この章はシジェクとミシェル・シオンの翻訳作業から生まれたものなので、内田樹の独創ではない。読み方が鋭すぎるから内田は自分ひとりでここまで思いついたのかという疑いを抱いた。

 最後の章はハリウッド映画の女嫌い(ミソジニー)が語られていて、マイケル・ダグラスの映画に出てくる女性はほとんど抹殺されるそうだ。わたしはそんなことは感じたことがなかったが、開拓時代に女性はあまりにも稀少だったので、「非モテ」の鎮魂が男の団結に必要になったのだと内田樹は解釈してみせる。わたしは『タイタニック』のような女性の人生賛歌を思い出すのだが。

 田嶋陽子も『ヒロインは殺される』という本を書いていたな。この本は自立と依存をえがいた『存在の耐えられない軽さ』の解釈がいちばん記憶に残っているだけだが。

 まあ、映画を見るとき、人が死んだり、殺されたりするとき、こんな生き方をしていれば殺される、いけないというメッセージがこめられていると見たほうがいいのだろう。

 ハイレベルな映画解釈が読める本である。現代思想家の思想が学べるというより、映画の新しい解釈に目覚めさせれる本だな。読んで損なしの本。おもしろかったよ。

「あらゆる批評の要諦は、「批評を読み終わったあとに、猛然と実物を見たく(読みたく)なるということだと僕は信じています」。…「まだ見ていない映画」が見たくてたまらなくなり、TUTAYAに走り、あるいはamazonでの「大人買い」衝動に駆られるといった事態になることを心より祈念しております」。

 なったよ。にやりと笑うあとがき。映画より映画の思想本のほうを読みたくなったが。


ヒッチコック×ジジェク斜めから見る―大衆文化を通してラカン理論へ汝の症候を楽しめ―ハリウッドvsラカン映像の修辞学 (ちくま学芸文庫)物語の構造分析

現代映画思想論の行方―ベンヤミン、ジョイスから黒澤明、宮崎駿まで愛の真実と偽りをどうみわけるか―映画でみる精神分析 (講談社プラスアルファ文庫)「本当の自分」をどうみつけるか―映画でみる精神分析 (講談社プラスアルファ文庫)映画と精神分析―想像的シニフィアン「死にたい」気持ちをほぐしてくれるシネマセラピー上映中―精神科医がおススメ 自殺予防のための10本の映画

シネマのなかの臨床心理学 (有斐閣ブックス)トラウマ映画の心理学―映画にみる心の傷ヒロインは、なぜ殺されるのか (講談社プラスアルファ文庫)昔話の魔力シネマ 1*運動イメージ(叢書・ウニベルシタス 855)

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とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
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