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11 28
2011

TV評

『江~姫たちの戦国』に見る繁殖の勝利者と権力移譲の問題

414923356X江(ごう) 姫たちの戦国 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)
NHK出版
日本放送出版協会 2010-12-18

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4149233578江(ごう) 姫たちの戦国 後編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)
NHK出版
NHK出版 2011-05-31

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4149233586江(ごう) 姫たちの戦国 完結編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)
NHK出版
NHK出版 2011-09-30

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 『江~姫たちの戦国』はわたしにはめずらしくNHK大河ドラマを最後まで見ていた二度目の作品になった。評判も悪く、視聴率もふるわなかったドラマであるが、わたしはふたつの理由で見ていた。

 ひとつは男の戦国の勝利者は歴史ですぐわかるが、女の子孫をのこすという戦いでは勝利者はだれだったのかという興味。戦国時代は武将同士で女性が婚姻でおくられることが多かったから、戦の敗北者も子孫を残していないとは限らない。これは繁殖戦略を考えた社会生物学とか竹内久美子とかが考えそうなテーマだ。

 もうひとつは権力の空白や移譲はどう行われるかという興味だった。権力というのは将軍や王が突出して存在するのではなく、群雄割拠のなかで権力をもつ者はだれに保証され、認められ、どう受け継がれるかの権力の後ろ盾の面に興味があった。権力はほかにも権力を握れる可能性のある者がたくさんいる中で、ひとりの権力者が選ばれてゆく。そういう権力の空白と移譲の緊迫感・経緯をこのドラマに見ることができたのだ。

 戦国時代は徳川家康が勝利を得たことになっているが、織田信長の子孫がスケートで活躍したように織田家も子孫をのこしてた。男の歴史では戦の勝者が歴史にのこるが、女の繁殖史で見ているとかならずしも敗者が子孫を根絶してしまうとは限らない。敗北しても勝利者側に女性を婚姻でおくり、血や遺伝子をのこしていたかもしれないのだ。男の歴史で敗者になったものはかならずしも血や遺伝子をのこさらないとは限らない。はたして女の繁殖史では戦国の勝者はだれだったのか。わたしは歴史にくわしくないので戦国武将の子孫はだれがのこったのかという興味から、このドラマを見ていたのだった。

 『江』は織田信長の妹の娘たちが主役であり、彼女たちは豊臣秀吉の妻となったり、徳川家康の息子の妻となったりして、織田家の血が本能寺の変でとだえたのではなく、戦国の勝利者の系譜にひきつがれてゆく。織田信長は男の勝利の歴史では消えていったが、織田家の血はとぎれたわけではないのだ。江によって徳川の血のなかにのこされたわけだから、織田家の血・遺伝子も大繁栄をとげたわけだ。

 ところで豊臣の血は兄弟、親類ともにすべて滅びてしまったのだろうか。たとえば親類の女性にのこっていたということはないだろうか。もし血縁者がすべてとだえてしまったとしたら、天下統一をはたしたNO.2だった豊臣秀吉は女の歴史では敗者におちいってしまうことになる。

 このドラマでは戦国の時代において姉妹が敵味方にひきさかれ、戦い合い、殺しあうという悲劇を最大の見せどころとして戦争、闘うことの悲劇や非戦、平和のたいせつさをうたったテーマをもっており、この悲劇の山場を描きたいためにつくられたドラマだったと思う。

 わたしが興味をもっていたのは社会生物学的なものからで、この学問は繁殖戦略から人間や社会、文化を読み解こうとするジャンルである。すべての帰結を繁殖戦略から読み解こうとする学問は、えてして社会や文化の原因から繁殖をまったく考慮に入れないほかの人文学からは虚をつかれる問いをもっている。男の歴史ではなく、女の歴史といっていいかもしれない。信長の姉の娘たちという主役はその格好の題材をもたらした。

 もうひとつの興味は権力移譲の問題で、権力が空白になると権力者はどうやって、だれに選ばれ、まわりに保証されるのかという問題だった。信長が暗殺されたとき、秀吉・豊臣が権力を握っているとき、家康は権力をどうやって奪還したのかという権力空白・移譲の問題にこの『江』は興味深い経緯を提出していたと思う。

 わたしは歴史をくわしく知らないのでこのドラマによって織田、豊臣、徳川の三人は同じ織田勢力のひとりにすぎなかったことを知った。織田家がすでに天下統一の基礎をもっていたことになる。あとは家来たちの勢力・権力取り決めの戦い・内紛だったようだ。

 権力の空白は明智光秀が信長を暗殺したとき、秀吉が死去したあとの徳川との葛藤などで露わになるのだが、権力はそれまでの権力者の席が空くと、つぎの権力者の信認はだれに、どうやって与えられるのかという間隙は多くの問題・葛藤を生み出すようだ。

 そもそも戦国時代自体、室町政権の崩壊によって生じた権力の空白において多くの武将に争われたものだ。そしてふしぎなことに武将たちの戦国時代に天皇は争いに加わることもなく、超越した存在として君臨していたようだ。秀吉や家康も天皇から関白や征夷大将軍などの位を与えられているのだ。権力はどうしてこのようなふたつの系統の権力を温存できたのかふしぎなことに思える。

 権力はどうやって、だれに信認されれば、その権力の座に着くことが認められるのか。戦国時代はその権力の座を承認されることができなかったから、多くの武将によって戦で勝負をつけなければならなかったのではないか。権力の承認が不在だったから、戦はおこったのではないか。

 ドラマ『江』では戦を終わらせ、太平の世をつくりだすためには犠牲もやむをえないという決断を秀忠もおこなう。権力の承認というのはほかに権力の強さを競える相手がいては頂点の権力を保持できないのである。太平の世を築くとは特権的な権力をだれかが握ることだったのだ。

 この作品は姉妹が敵味方にわかれて戦い合う悲劇の戦国の世を描いて平和をメッセージしたわけだが、その平和が崩壊したのは権力の空白、不在によっておこったわけだから、この作品の問いは権力の空白はどう埋められるかということも大きなテーマになっていなければならなかったわけだ。

 戦国時代自体が権力の空白・不在により戦がおこり、多くの血が流されたのだから、戦国時代のテーマはどうすれば安定した突出した権力は承認されるかということだったのだ。それが群雄割拠の戦乱の時代を生み出したのだ。この作品の根底をなしているのは権力はどう承認されるのかということでもあったのだ。

 秀忠は戦国の世を終わらせるために妻の江の姉・茶々や豊臣家を根絶させる決断をおこなった。ゆるぎない独裁の権力をつくるにはほかの強大な権力をもつ者がいては果たすことができなかったのだ。この考えは戦国の世に散っていった人たちはその絶大な権力のために犠牲にならなければならなかったということを正当化させる考えにもつながるが。戦国の世は権力の承認を取り決めることができなかったから、多くの血が流されたのである。太平の世を実現するためには絶大な権力の正統性がどうしても必要になるものなのだろうか。


▼社会生物学の入門書に(竹内久美子はトンデモという話もありますが)
女は男の指を見る (新潮新書)遺伝子が解く!美人の身体 (文春文庫)遺伝子が解く!その愛は、損か、得か (文春文庫)遺伝子が解く!愛と性の「なぜ」 (文春文庫)草食男子0.95の壁―動物行動学的オトコ選び

▼江の史実関連書(大河ドラマ本はたくさん出るのですね)
江の生涯―徳川将軍家御台所の役割 (中公新書)戦国三姉妹  茶々・初・江の数奇な生涯 (角川選書)お江 戦国の姫から徳川の妻へ徳川秀忠とお江 (学研M文庫)徳川秀忠と妻お江―江戸三百年の礎を築いた夫婦の物語 (PHP文庫)

お江と徳川秀忠101の謎 (PHP文庫)もっと知りたい! お江と戦国の女たち (PHP文庫)浅井三姉妹の真実 (新人物往来社文庫)「江」  角川SSC新書  浅井三姉妹と三人の天下人 (角川SSC新書)お江 数奇な運命をたどった戦国の姫 (学研M文庫)

お江 (静山社文庫)お江と戦国武将の妻たち (角川ソフィア文庫)徳川幕府の礎を築いた夫婦 お江と秀忠

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うつけものから王へ

私も「江」を一年通して見ていた。通常大河ドラマは男の世界の話が多く、華やかさに欠けるが、今回の「江」は女が主人公ということもあり華やかであった。年を取ると和服姿の女性が魅力的に見えてくる。特に宮沢りえが美しかった。視聴率が悪かったといっても平均15%は維持していたようある。しかし、ちょっと無理があるドラマではあったと思う。戦国時代の個性あるキャラクターが強すぎて、その間を行き来する江の個性はどうしても弱くなってしまうのだ。ただ時系列的にドラマを作るのではなく、江の歴史的な大仕事、大奥の礎を作っていく過程をもっと中心に添えても良かったと思う。
ドラマ中、私が特に注視していたのは信長の描かれ方だ。信長は戦国時代の中で一番強い個性の持ち主といってよく、戦国時代のドラマでは信長が暗殺された後の流れはがらりと変わってしまうのだ。今回は最初の一カ月だけではあったが、豊川悦治の信長もまた強烈な個性を発揮していた。かつて緒方直人は一年にわたって信長を演じたが、恐らく相当疲れただろうと思うのだ。その後の緒方にはどこかエネルギー不足を感じてしまう。
ドラマでは信長は独裁的で恐ろしい人物として描かれることが多いが、経済政策者としての面はあまり語られない。関税撤廃、経済特区、今の派遣労働者のように銭で兵を雇うなど、同時代の戦国武将よりはるかにビジネス感覚に優れている。堺屋太一氏の「秀吉」がその辺の信長をうまく伝えている。機会があればご一読あれ。
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