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2011

書評 ビジネス書

『クリティカル・シンキング【実践編】』  リチャード・ポール リンダ・エルダー

4492554963クリティカル・シンキング【実践編】 「仕事」と「人生」を豊かにする技術
リチャード・ポール リンダ・エルダー
東洋経済新報社 2003-12-12

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 ビジネス界隈では有名らしいので読んでみた。認知療法となにが違うのかと思ったが、認知療法は思考と感情の関係に注目し、おもにうつ病からの回復をめざすが、クリティカル・シンキングは仕事や人生に生かす違いがあるようだ。いずれも思考の客観視や良悪の判断をおこなう。人はしぜんのままだと自分の思考に距離をおいて、なにを考えているのか把握することすらできないものだ。

 「自分がどのようにして考えるかについて何かを学んだことがありますか。自分の考えについて勉強したことがありますか。…自分の考えはどこからやってくるのでしょうか。それはどの程度、質の高い、あるいは低いものなのでしょう。自分の考えはどの程度あいまいで、整っておらず、一貫性に欠け、誤った、非論理的な、表面的なものなのでしょうか」

 「私たちの生活はすぐに自己中心的になってしまう傾向があります。…自分の見方は正しいと決めてかかり、疑問視することは、まず、ありません。自分の成長、自己洞察、完全さを疑問視することもないし、自分の欠点・偏見・自己欺瞞を見直すことはほとんどありません」

 「それほど考えないでも知識を得ることができる、知的エネルギーを使わないでも読書ができる、書くことは練習や努力ではなく生まれ持った力、と無意識に考えている人は多くいます」

 「「私が信じるから、それは正しい」
  「私たちが信じるから、それは正しい」
  「私がそれを信じたいから、それは正しい」
  「ずっと私が信じてきたから、それは正しい」
  「それを信じると得だから、それは正しい」」

 人は自分の思考を客観視しないといかに自分の思考に無自覚か、いかに自己中心的な思考におちいるかの説明にはなかなか胸に迫るものがあった。自分の考えを意識化しないということはこれらの誤謬や過ちがジャングルのように生い茂るということである。自己中心性の克服はわたしにとっても大きな課題だと思った。

 思考が自己中心的なものから離れないとするなら、所属社会や自民族中心主義からの見方もとうぜん離れられないだろう。この教養は文化人類学や社会学から得られるものだが、それらのジャンルも所属社会への批判的感情の上からしか興味が向かないものかもしれない。

 さらに100年、500年、1000年前の本を読むことも時代や社会の拘束から逃れる視点を与えてくれる。こんにち真実と教えられ、信じ込まれているものもひとむかし前ではそうではなかったり、新しい常識や神話として信じられたきたものだということがわかる効用がある。知識というのはいかに自分や常識や慣習から離れ、批判的に客観視できるのかの作業だとも思える。でもこういう知識に興味をもつのって、社会や常識に違和感や不調和を感じないと向かわないというのもあると思うけどね。

 この本ではほかに道徳と慣習、宗教の同一視のあやまちや、仕事でのクリティカル・シンキングの使い方も説明されている。

 専門知識のクリティカル・シンキングも考えられている。われわれは専門家のいうことは権威から信じてしまうという傾向があるが、専門家も同じ過ちを犯す人間がつくりだすものであり、専門知識も利害関係や力関係の中から生まれてくるものだという認識が必要である。専門家の批判はイヴァン・イリイチが学校や病院におこなっており、これらの本を読むと専門家批判の視点が得られるだろう。専門分野の批判やあまやちを指摘する知識はひじょうに少ないと思うのだけど。

 クリティカル・シンキングの本を読んで思ったのはこれは認知療法の考えからおこったものだろうかということと、哲学や学問を読んでいればそういう知識を多く得ることができると思った。学問というのは批判的知識の集積であり、自文化や自民族中心主義からの脱却や批判が多くおこなわれている。その思考の原理を抽出したものがクリティカル・シンキングというものだろう。

 それにしても自分の思考の自己中心性は衝撃的だった。いかに無意識に自分が正しいと思っているか、いかに自分の利害や利益を中心に考えているか再考をうながされた。もっとこのことについての本を読みたい、なければ考えたいと思ったが、自分の中から自己中心性をあぶりだすことはいかにむづかしいことか。

脱学校の社会 (現代社会科学叢書)脱病院化社会―医療の限界 (晶文社クラシックス)〈増補改訂 第2版〉いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法


クリティカル・シンキング―「思考」と「行動」を高める基礎講座 クリティカルシンキング (入門篇) クリティカルシンキング・実践篇―あなたの思考をガイドするプラス50の原則 クリティカル進化(シンカー)論―「OL進化論」で学ぶ思考の技法 論理的に考えること (岩波ジュニア新書)
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