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10 22
2011

書評 社会学

『封建主義者かく語りき』 呉 智英

4575710776封建主義者かく語りき (双葉文庫)
呉 智英
双葉社 1996-07

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 「封建的」という言葉はずっと日本の悪者の集大成のように嫌われている時期があった。封建の意味は「古くて悪いもの」、「専制的で目下の言い分をきかないこと」、「支配的な立場にある人が下の人を文句をいわずに服従させるやり方」といったもので、民主主義の反対概念である。

 先に桜井庄太郎の戦前から戦後に書かれた封建主義批判のモデルのような『名誉と恥辱』という本を読んで、共感をよぶより封建主義にすべての悪をおしつける認識のありかたにひじょうに違和感と疑問を感じたので、呉智英の封建主義擁護のこの本を十五年ぶりくらいに再読した。

 封建主義という悪者におしつけてきたものはなんだったのか。封建主義という悪者はほんとうに存在したのか。封建主義という言葉にくるめられた民主主義が正義で、封建時代や江戸時代が悪で暗黒という図式を信仰していいものか。もちろんそれに抗するかたちで江戸や中世の自由で反権力的な庶民や制度の歴史研究はたくさん出るようになった。封建主義という言葉は民主主義が正義で善であるための集約された悪役だったのである。

 民主主義が理想であるために封建主義は徹底的にブラックでなければならなかった。民主的で近代的で個の確立した日本を生み出すには、歴史のある時期を前近代的で土俗的で、専制的で、呪術的にしなければならなかった。

 われわれは学校で民主主義と平等の理想を教えられて、過去の封建的なブラックな歴史認識を頭にすえつけられる。学校を出て社会に出ると「ん? おかしいじゃないか。ぜんぜん違うではないか」という現実の社会のすがたに気づくのだが、「民主化VS封建主義・前近代」のフレーム自体を結びつけて疑うところまでにはなかなかいかないものだ。いまはだいぶ薄れたが、遅れた前近代的な日本という批判はマスコミや言論人のあいだでもところどころに散見される。

 わたしとしては封建批判というのは金や企業の権力が武家政権や武力の権力をおさえるためのイデオロギーではなかったのかと思う。現代は企業や金の権力が最大化された時代である。生産マシーン国家や、人生の多くを労働が支配する時代になっている。経済効率や経済合理化が最大の権力と実効力をもつ時代である。なによりも企業活動と労働が優先される時代である。それをおさえる権力や理由、根拠がまったくない。つまりは経済と企業の権力が青天井になる社会である。このような労働マシーン国家に高速道路を整備するために封建批判イデオロギーはキャンペーンされたのではないか。

 われわれは武家政権という封建批判にうつつを抜かしているうちに企業の権力にハイジャックされたのだ。武士を悪者に立てているあいだに企業や富者の権力は見逃され、強大になり、われわれをふたたび専制的に封建的に支配するようになったのに、その権力格差や支配力に気づかなくなっている。武力や国王が専制的な時代ではもはやない。企業や富者の権力がどこまでも青天井になる危機の時代をわれわれは生きているのではないか。この危機の自覚が封建批判によってくらまされてきたのではないか。

 平等の理想にしたって人々がひとしく扱われる人権の必要から獲得されたというよりか、階層によって労働賃金が変わったり、手当てが違うのは困るから、労賃の平準化の必要から生まれたのではないのか。労働の価値が標準化されるための平等化ではなかったのか。また人々の努力や勤勉をひきだすためには家や階層、血統で優遇や差別があればやる気をもてないのでみんな同じところから競争できるしかけが平等化ではなかったのか。

 マーケットにしても階層別に別れていれば、大量生産・消費のマーケットを獲得できない。階層別に商品をつくったり、売れないのは大量生産に適しない。人々を平準化しなければ大衆マーケットは成立しないのである。民主化・封建批判とは経済至上主義に道を開くための下準備のことではないのかと思えてならない。それで企業マシーン、労働マシーンはこの国に大量生産されたのである。標準化された規格品生産が民主化・平等化の正体ではないのか。企業化権力の最大化が封建批判の向かう先ではなかったのか。

 民主化の理想と封建批判という教育・プロパガンダをずいぶんわれわれは受けてきたのだが、悪者を池に沈めて石を投げているあいだにわれわれは企業権力という封建権力にぱっくりと支配されていましたというお粗末なオチに陥ったのではないのか。企業や経済があまりにも力をもちすぎた時代の反省や批判が少なすぎると思う。

 呉智英の本にあまりふれなかったのでいっておくと、封建批判の図式はちゃんとそろえているが、読者におもしろいように工夫したためだろうが、饒舌なおふざけが文量的に多いのがすこしじゃまだったと思う。それと新聞や時事問題を中心に考えるために古びた内容も多かった。

 ところで封建主義批判を批判的にかんがえなおした研究とか思想の系譜をとらえなおした本は出ていないのだろう。封建主義を批判していいっぱなしで終わったのだろうか。封建批判をしてどんな社会をもたらしたのかその反省の必要があるのではないだろうか。


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