HOME   >>  書評 社会学  >>  『自爆する若者たち』 グナル・ハインゾーン
08 27
2011

書評 社会学

『自爆する若者たち』 グナル・ハインゾーン

4106036274自爆する若者たち―人口学が警告する驚愕の未来 (新潮選書)
グナル ハインゾーン Gunnar Heinsohn
新潮社 2008-12

by G-Tools


 人間の歴史や社会変化の要因にあたらしい見方を提示してくれる良書。人口学、人口統計学の観点から社会を見てみないと社会動因のほんとうの要因は見えてこないのかもしれない。

 ヨーロッパの世界征服だって、イスラムの自爆テロも、日本の高度成長も、若年人口層の爆発だったという見方でとらえると事態の要因がよりいっそうはっきりするかもしれない。これまでの学問は人口増加・減少を社会の出来事の理由にすることは少なかった。たんじゅんに人口増加がその要因をつくったといえるかもしれない。

 15歳から25歳の若年人口層が爆発的に増え、社会での割合が三割をこえると内戦や戦争の可能性が高まる。そのような層を「ユース・バルジ」という。この層の爆発的増加が内戦や暴動、海外膨張などの一国の運命や変化を決定づけてゆくのではないか。「ユース・バルジ」という言葉に注目する必要がある。

 驚くのは現在の人口爆発である。イスラム圏では1900年から2000年にかけて、1億5000万人から12億へと8倍にふくれあがった。その間、ヨーロッパは4億6000万人から6億6000万人に増加しただけ。ヨーロッパ人が世界人口の4分の1を占めているとき、ヨーロッパは世界制覇をおこなっていたが、同じ割合を占めることになるイスラムがその歴史をくりかえさないとだれがいえようか。もっとも2020年になるころにはユースバルジの峠をこえるといわれるが、今世紀は「イスラムの世紀」になるだろうといわれている。

 2003年の世界人口63億のうち、40億は1968年以後の35年間に生れたという。先進国以外で1972年から1987年にかけて生れた男子の数は7億強にのぼる。さらに1988年から2002年に生れた男子の数は9億。この「忘れられた時限爆弾」が今後10年~15年のあいだに歴史をつくることになるのだ。

 ユースバルジがある国は若者が職にあぶれたり、食えないのではなく、野心やポストにありつけないがために内戦や騒乱、あるいは戦争、ジェノサイドなどをひこおこしてゆく要因になる。次男、三男は満足するポストを得るために文字通りの血みどろの闘いに参入してゆくのである。ユースバルジ世代が社会の三割にたっすると、いっそう内戦や騒乱の可能性が高まる。

 ユースバルジ世代が三割以上に達した国はざっと拾うだけでもインドやインドネシア、パキスタン、ナイジェリア、バングラデシュ、フィリピン、エジプト、イラン、スーダン、タンザニア、ネパール、イラク、サウジアラビア、など数多くの国がある。

 ユースバルジ問題を抱えた国は67ヶ国あるとされ、そのうちの60ヶ国が大規模な殺害行動の経験をもっている。ユースバルジはウチにもソトにも殺戮の危機をもつのである。第三世界でときたま聞く民族大虐殺のニュースにはそういう人口爆発の要因もあるのかもしれない。「人口のインフレーションの後ろにはジェノサイドがつき従う」。

 チュニジアではじまりイスラム各国に連鎖した民主化暴動もこのユースバルジ世代の勃興によるものだとも推察できる。住むところや食うに困っているわけではない。自分の力を存分に発揮できる場所が絶対的に足りないのである。名誉やポストを求めて若者は血に飢えるかのようにそれを探し回る。「最後の救済手段は戦争である。それは各人に、勝利または死を与える」。

 人類は来るべきユースバルジ世代の勃興をどう乗り越えてゆくのだろうか。人口爆発のおこった国々がこれからの世界の主役になってゆくだろう。そしてそれらの国で正常な経済成長をへるよりは、騒乱や暴動、戦争、大量虐殺のおこる可能性が高くなってゆくことだろう。野心に満ちた若者の居場所は多くの他人の命より重いと考えられる場合が往々にして出現してしまうらしいのだ。

 この著者はジェノサイドの研究者だからこの世界、人類がいかに大量虐殺をおこなってきたか思い知らされる。そして若年層の人口爆発がいかに社会を変動させてゆくかにも強い懸念を抱かせた。あらためて人口から社会や歴史を見る目は重要だと思った。

 この本では人口統計からヨーロッパの世界制覇の要因をさぐろうとしているが、どちらかというとイスラム圏や第三世界の若者がどういう生き方、運命をたどることになるか将来の予測のほうにもっと重点をおいてほしかったと思っている。もっとこの本から人口爆発の事例をひいてきたかったのだが、本書を読むことにゆずることにしたいと思う。なお、翻訳文は読みにくいかな。


老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき (中公新書 1914) 人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書) 歴史入門 (中公文庫) 10万年の世界経済史 上 10万年の世界経済史 下
by G-Tools

関連記事
Comment

3割がキイかな。

面白そうな本ですね。日本の人口減少が語られる時、移民の受け入れのことが語られます。移民も少数の時は良いが3割を超えてくるときっとさまざまな問題がでるのでしょうね。少数の時は日本のルール、地域の規則などに従っていた外国人達も数が増え発言権が増して来ると、意見をし、守らなくなっていくでしょう。建設的な意見交換がなされているうちは未だ良いですが、いずれ交渉決裂。多かれ少なかれ醜い対立が起こるのでしょう。いや既に日本のそこかしこの地域で新参移民と地元民の対立は始まっています。数年前に起きたフランスのマグレブ諸国の移民暴動は対岸の火事ではすまない時代がすぐそこまで来ているのです。

考えるための書評集というこのブログで、あえて、

『考えない練習』 小池 龍之介著

を取り上げたら面白いんじゃないでしょうか?
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top