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06 12
2011

書評 小説

『我が町、ぼくを呼ぶ声』 ウィリアム・ゴールディング

61sfpx+ZEZL__SL500_AA300_.jpg我が町、ぼくを呼ぶ声 (集英社文庫)
ウィリアム・ゴールディング William Golding
集英社 1983-12

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 45歳になった男が生れ故郷で思い出した青春の回想録と紹介された本。二十すぎに読み、40代になったいま、ふたたび読み返してみたが、この小説はそういった紹介の内容と異なった作品でしょうしょうおもしろみが欠けるものだった。

 こういう中年にいたり、ふたたび生れ故郷で青春の日々を思い出すといった作品はシュトルムの『みずうみ』が有名だろうか。内容はほとんどおぼえていないが。

 学生のころは自分はまだ未知数でどんな将来が待っているかわからない不明な存在である。社会に出ると自分というものの正体がわかってきて、こんなものか、たいしたものではないという打ちのめされる出来事に多く出会う。そういった悔恨を人はどう消化しているのかといったことをわたしは小説から読みとりたかったのかも知れない。残念ながらこの小説はそういったテーマをあつかったものではないらしい。

 ゴールディングは『蝿の王』という無人島での少年たちの政治権力争いがすさまじい寓話小説がすごかったが、この作品はそのレベルの期待に大幅にこたえてくれない作品だった。紹介のふれこみは魅力的で、二十すぎに読んだときも同じ経緯をへたようにかすかにおぼえている。

 だいたい三部仕立てになっていて、一部ははじめての性の体験をする女性とのエピソードで、この内容は青春小説なのだが、二部では音楽会での出来事、三部ではヴァイオリン教師との思い出がつづられている。45歳になった男が生れ故郷にかえって胸に去来するものは……といったテーマとは違うものが描かれている。

 いったいゴールディングはこの三部作でなにをいいたかったのだろうか。わたしには読みとることができなかった。人生の月日の流れを郷愁するような、失ったものを嘆く味わいを感じさせてくれる作品であったら、好きなものになれたかもしれない。

 なお、中年の喪失感や失敗感に効く本としてアラン・B・チネンの『大人の心に効く童話セラピー』という本もある。人は中年にいたると魔法やおとぎ話がとぎれるのである。


みずうみ 他四篇 (岩波文庫)大人の心に効く童話セラピー―お姫さまと王子さまが中年になっても幸せでいるために (ハヤカワ文庫 NF 337)蠅の王 (新潮文庫)通過儀礼尖塔―ザ・スパイア

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