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04 12
2011

書評 哲学・現代思想

『不幸論』 中島義道

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4569624596不幸論 (PHP新書)
中島 義道
PHP研究所 2002-10

by G-Tools


 わたしは中島義道のようにとことんネガティブをつきつめる考え方には価値があると思っている。底まで掘らないと見えてこない事柄はたくさんあると思う。ネガティブをとことんつきつめたいのに許されないことが多すぎて、かえって不幸になっている人もたくさんいると思う。

 しかしわたしはどうしてそれを思考実験や探索にとどめて、さっさと思考を捨てれば不幸に陥らないという禅や仏教の方法を使わないのかふしぎに思ってきた。それは観念や思考の病にすぎない。捨てればその不幸はなくなるという思想の教えは東洋にたんまり伝承されてきたのに、どうして中島義道はそこから抜け出そうとしないのだろう。

 この本のなかでそれらを提唱したアランやマルクス・アウレーリウスの幸福論もとりあげられているから、中島義道も十分に知っているはずである。三島由紀夫がそれに気づいた文章も引用している。しかし中島義道は浮上してくることはないのである。安易に妥協することが許されないらしい。さっさと安易な思考消去の方法にとりすがったわたしのような凡夫にはなりたくないようである。だけど思考や観念が幻想や虚構であるということも重い真実だと思うのだが。

 中島義道は「幸福教」にさっさと改宗しないために「幸福教」の暴力や欺瞞を知り尽くしている。ネガティブをつきつめる効用はここにあると思う。人がどうして安易な幸福や楽観に悔い改めないかというと、この「幸福教」の暴力や強制にウソや欺瞞をうすうす感じているからだろう。不幸や悲観の真実をじっくりと見ることのできない剥奪に人は抵抗しているのだろう。


「そのとき「みんな」とは感受性のマジョリティである。その感受性をもつことのみが、唯一幸福であるはずだ、という怠惰な思い込みである」

「社会通念とのズレがあっては幸福はないだろうという図式をあてがって、執拗に個人の心情を「社会化」しようと努力するのだ」

「みんな、真実を正確に表現することが、いかに平和を乱すかを知っている」

「この国では、相手に対する「おもいやり」からほんとうのことを知らせなくてもあまり非難されないのに、真実だからという理由でほんとうのことを知らせると、徹底的に攻撃される」

「じつはあなたが平穏無事なあなたの世界をかき乱されたくないからなのだ」

「「幸福であると思い込みたい」欲望、「幸福であると思われたい」欲望は、「真実を見たくない」といういっそう強烈な欲望に支えられている」



 ネガティブを徹底的につきつめないと見えてこない風景である。そして人はそういう風景をしっかりと見極めたうえで人生を歩きたいと思っているのではないだろうか。安易な方法で幸福や妥協をもとめられると、社会通念や鋳型におしこめられた判で押した人間ができあがる。他人と同じように反応して、同じことしかできない人間に。

 不幸やネガティブをつきつめることはその風景を見たうえで自分の足で歩くことである。人は他人がつくった道路や電車のうえにすぐに乗ってしまって、自分の足で、自分の感覚で歩くことをやめてしまうのである。そして「寅さん」のように真実をいえば成長したかもしれない人間に真実を告げず、いつまでも同じ間違いをずっと犯しつづけるのである。

 真実を見ないことによって「幸福の楽園」は保ちつづけられるのである。「幸福教」の信者たちはとりわけその攻撃と排撃の衝動が強い。善意や思いやりが、真実やネガティブをたちまち根絶やしにするのである。

 そして欺瞞とウソの楽園ができあがる。中島義道はこのウソの楽園に闘いを挑んだのだろう。そして日本のマジョリティと同じ道をいかない若者たちもこの闘いに挑んでいる最中なのだろう。

 中島義道がやっていることは価値あることだと思うし、学ぶこともたくさんある。中島義道の見る風景から、自分が感じる不満やいらだちに明確な輪郭や言葉をあたえられることはたくさんあった。

 しかしわたしはその深さにもぐらないでさっさと地上に浮上した。禅や仏教で思考を捨てれば、それは虚構や幻想にすぎないと知ったからだ。中島義道はこの不幸やネガティブをけっして手放さない。とりわけ死の不幸や恐怖を手放さない。わたしは子どものときにこの恐怖をさっさと手放した。観念や言葉を手放すことのほうが真実を見ることだとわたしは思うのだが。

 逃げているのではなくて、それが人間の認識の性質だと思うのだが。不幸もネガティブもまたたんなる「つくりごと」である。


孤独について―生きるのが困難な人々へ (文春文庫) 「人間嫌い」のルール (PHP新書) カイン―自分の「弱さ」に悩むきみへ (新潮文庫) 悪について (岩波新書) 「対話」のない社会―思いやりと優しさが圧殺するもの (PHP新書)


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金玉を潰して見よう。

その不幸は世界その者ではないのですか?

幸福をフサ、不幸をハゲで置換して読んだら、うけました。
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