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03 25
2011

書評 社会学

『東京に原発を!』 広瀬 隆

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4087491374東京に原発を! (集英社文庫)
広瀬 隆
集英社 1986-08-20

by G-Tools


 広瀬隆や原発関係の本がamazonで軒並みベストセラーや一時的な在庫切れになっている。原発の危機はもうほとんど省みられることはなくなったのだが、警鐘を鳴らしてきた人がにわかに注目されることになった。原子力は安全だといいつづけてきた人とどちらが信用できるだろうか。

 広瀬隆はさいきんは陰謀論的な本を書いていて信用をなくしかけていたのだが、その視点も忘れずにこの本を読まなければならない。86年出版の本でいささか古い知識だとふくめながら読んだのだが、原発事故で新しく知った知識に相当することがたくさん書かれている。

 広瀬隆は原発反対派なのだからとうぜん悲観的・危機的な知識をのべる。それも割り引いて読まなければならないのだが、事故がおこってしまった現在、いちばん最悪な予想が当たってしまったわけだ。原子力が安全だ、放射能が漏れても自然被曝以下だ、ただちに人体に影響ないといいつづける原子力の専門家の言い分をどれだけ信用できるというのか。いまは悲観論が当たってしまった真っ最中なのである。

 悲観論的立場で最悪を想定しながら出来事の推移を見つづけるべきではないか。twitterではデマや、トンデモだ、不安を煽るなという声もたくさんあって、いったいどの声や立場をとるべきかひじょうに悩むわけだが、放射能の将来にわたる影響や被害はだれも予想することや的中させることも不可能なので、最悪と悲観の予想を想定しながら事に当たるのが賢明かもしれない。人知をこえる出来事がおこっているわけなのだから。

 この本では事故がおこったらどうなるか東海村を例にのべられていたり、永久に冷やしつづけなければならない放射能の処理はどうするのか、人体の影響はどうなるのか、数々の事故の影響などがのべられている。本が出てからの24年で原子力技術・知識はどう変わったのかこの本ではわからないが、おそらく基本は変わっていないだろう感触は感じられた。ミリレムという単位はいまは使われていないが。

 広瀬隆は事故は大地震とともに訪れると予測している。「すべての安全装置は、それを作動させる電気系統が切断された瞬間、無意味なものに変わる」。大爆発が東海村でおこれば東京まで影響が出るのは半日後だ。このような問題では最悪な事態を予測して行動するのが賢明である。チェルノブイリではウクライナの大穀倉地帯が全滅し、ポーランドが深刻な汚染をうけた。

「身体の受ける被曝の種類とそれを支配する諸因子はまことに多岐にわたるのであって、これらについてすべてを、科学的資料と合理的な基礎の上に考察することはほとんど不可能なことである」。生体解剖をしなければ被曝力を測定できない。チェルノブイリの死の灰が日本に飛来したとき、関係者はいまと同じ言葉「ほとんど身体に影響ない」、「ただちに影響ない」といいつづけたそうだが、その意味はわかるわけがないということなのだ。

 放射能が出したエネルギーは測定することができる。しかし人体にどれだけ残留し、濃縮したか、知ることはできないのである。

 いちばん恐ろしいことは大気汚染の知識でよく習ったように食物連鎖による蓄積だろう。ミルクや種などに放射能は蓄積する。栄養を濃縮した部分にそれも濃縮されるのである。人間も栄養価が高いことを知っているから卵や種を好んで食べるが、そこに濃縮された放射能が蓄積されているのである。だから食物連鎖で食べるごとに何万倍、何十万倍、百万倍と濃縮されてゆくことになるのである。食物連鎖の頂点に立つ人間は毒物の吸収役、最終地点に立つ。

 プルトニウムやウランの半減期は何万年単位だし、クリプトンやセシウムは10年から30年単位だ。放射能が漏れてしまうということはどんなに恐ろしく、破壊的なことか。

 広瀬隆がいちばん懸念することは使用済みの燃料も半永久的に冷やしつづけなければならないということだろう。どこにも捨てるところはなく、名案もなく、千年もだれかがそれの管理をしつづけることなんてできるだろうか。何万年後の人類のために絵を書いて、井戸の水を飲めば苦しんで死ぬ図を知らせる案までつくられたそうだ。げんざい、処理施設は六ヶ所村にあり、広瀬隆はこんかいの地震でまずそこを懸念したという。

 この本では大爆発という最悪の事態の予想がおおく描かれている。リアルな危機が差し迫っている現在、人間にどんな影響を与えてゆくのか、書くことさえはばかられる。しかし世界各地の原発地帯では数々の事故がおこり、おおくの地域や住民に被害をあたえることでそれは現実の出来事となって人々を襲っている。それはおおくの場所でおこってきたことなので、すでに予想がつくことなのだ。

 日本人はどうしてこんな恐ろしいものを数多く建てることを許してきたのだろう。たとえ大爆発はまぬがれたとしても、すでに漏れてしまった放射能は無数につらなる連鎖の環に入り込んでしまったのである。大気に、水に、植物に、生きものに。専門家は「安全だ、ただちに影響を与えない」とくりかえしつづけるが、慎重に警戒と疑り深さをもちつづけるべきだろう。かれらは何十年後かの結果に責任をもてるわけがないし、予測などできるわけがないのだ。


▼3月20日時点のインタビュー(1時間17分)








 
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Comment

めしの種

日本の原発産業の市場規模は年間2兆円もあるらしい。
しかし、こんなに危険で採算も取れない事業でも、
国家主導で税金を投入すれば立派な飯の種になるんだなぁ!
でも、どうせやるんだったら、もっと有用で夢のある事業に投資してもいいんじゃないだろうか。
例えば、勝谷誠彦(この人怪しいけどなぁ)が言っていたんだが、
オーランチオキトリウムによるオイル生産の実用化に1兆円の予算を付けるとか。
今、福島原発事故によって原発推進にブレーキが掛かり、CO2排出による温暖化が促進されるという論調が出て来ている。
オーランチオキトリウムは今、まさに、原発縮小と温暖化防止の2つの問題の解決にうってつけじゃないだろうか。
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