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03 02
2011

セラピー・自己啓発

『気流の鳴る音』 真木 悠介

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気流の鳴る音―交響するコミューン (ちくま学芸文庫)気流の鳴る音―交響するコミューン (ちくま学芸文庫)
(2003/03)
真木 悠介

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 言葉が世界をつくるという考え方をこれほどコンパクトに説明した本はないだろう。8年ぶりの再読。

 人類学者カスタネダが見聞きしたメキシコ北部のヤキ族の老人ドンファンの教えをまとめたものだ。

「人が世界はこういうものだぞ、とおまえに教えてきたことさ。わかるか、人はわしらが生まれたときから、世界はこうこうこういうものだと言いつづける。だから自然に教えられた世界以外の世界を見ようなぞという選択の余地はなくなっちまうんだ」

「いったんこのような「世界」のあり方が確立されると、われわれはそれを死ぬ日までくりかえし再生しつづける。たえまないことばの流れによって」

「<トナール>は世界を理解するルールをつくりあげるんだ。だから、言い方によっては、それは世界を創造するんだ」

 人は言葉でつくりあげた世界像を真実のものと思い、実体あるものだと勘違いしつづける。それは地図や概念の編み込み図にしかすぎないのに、それが大地自体だと思い込みつづける。人は言葉や観念でつくられた世界像を「世界そのもの」と思いつづける。

 これは現代思想家が言葉をかえていろいろいいつづけてきたことと重なる。岸田秀の「共同幻想論」もそうだし、ウィトゲンシュタインの「言語ゲーム論」もそうだろうし、サピアとウォーフの母国語が世界観を規定するという仮説、広松渉の「共同主観的存立構造」、リオタールの「大きな物語」もそうだろう。

ものぐさ精神分析 (中公文庫)ウイトゲンシュタイン全集 8言語・思考・現実 (講談社学術文庫)世界の共同主観的存在構造 (講談社学術文庫 (998))ポスト・モダンの条件―知・社会・言語ゲーム (叢書言語の政治 (1))


 人は概念や言葉で編み込んだ世界像を「世界そのもの」だと思い込みつづける。わたしもこれらの人の言説をおおく読んでやって理解した。

 メキシコ・インディアンの老人が達した洞察眼は現代思想のみがやっと到達した思想ではなくて、禅や仏教がはるかむかしからいってきたことだ。言語の世界を払拭することは禅が言葉の意味を脱臼させる公案においておこなわれている。しかし禅や仏教からうけとるわたしたちのイメージは仏像や建造物を拝むものでしかなく、中核の知識がつたわることはないのだ。

 明晰の罠からぬけだすこと。現代では精神世界やニューエイジといった東洋宗教の西洋輸入によっておこなわれている。ラジニーシやアラン・ワッツ、マハリシ、クリシュナムルティ、グルジェフといった人たちの神秘思想からもれつたわる。しかしこれらの知恵は<宗教>という疎外観念によって遠ざけられるのだな。まるで「社会の縛り」から一歩も出てはならないようだ。

存在の詩―バグワン・シュリ・ラジニーシ、タントラを語るタブーの書ラマナ・マハリシの教え自我の終焉―絶対自由への道生は「私が存在し」て初めて真実となる


 意味の疎外についても呪術師ドン・ファンから警告をうける。

「所有や権力、「目的」や「理想」といった、行動をおえたところにあるもの、道ゆきのかなたにあるものに、価値ある証しはあるのではない。今ある生が空虚であるとき、人はこのような「結果」のうちに、行動の「意味」を求めてその生の空虚を充たす」

「おまえは生活の意味をさがそうとする。戦士は意味などを問題にしない」「生活はそれ自体として充全だ。みちたりていて、説明など必要とせん」

「履歴を消しちまうことがベストだ。そうすれば他人のわずらわしい考えから自由になれるからな」

 言葉や意味は目的の至上化をもたらし、人生を手段や道具にしてしまう。人は目的の道具になり、人生から疎外されていってしまう。言葉や意味の不毛さがドン・ファンによって説かれる。言葉や意味が人間をどれだけ疎外しているか計り知れないというものだ。

 言葉の疎外からみずからを解き放つこと。しかしわれわれは<宗教>という向こう岸の世界にいってはならないし、向こう岸にいっても神仏の依存であったり、グルへの崇拝といったもうひとつの束縛・服従に出会ってしまう。社会の言葉の監獄から逃れ出ても、宗教団体の依存や帰属がまちかまえているというわけだ。人は言葉に捕らえられている前に人間に「囚われている」のだろう。


呪術師と私―ドン・ファンの教え時の輪―古代メキシコのシャーマンたちの生と死と宇宙への思索無限の本質―呪術師との訣別呪師に成る―イクストランへの旅意識への回帰―内からの炎

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