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02 24
2011

書評 心理学

童話はどう読むのかのおすすめの本

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 物語の読み方ってわからないところがある。どう読んだらいいのか、どう解釈したらいいのか途方に暮れることがある。というか意味のわからないものは放ったらかしにしたままだ。

 童話のジャンルでは心理学的な解釈の豊穣な探求がある。物語の読み方がわからないとき、この童話の解釈学に学ぶのもひとつの手だと思う。子どものころに読んだ童話はこういうことをいっていたのかと改めて再発見できると思う。

 なお文章のほうは十年前に読んでいたころのものを再録した。当事のような記憶と鮮明さはもうないから。


4896914228昔話とこころの自立
松居 友
洋泉社 1999-09

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 童話の心理学的解釈でこれほどわかりやすい本はない。ユング派の解釈などとか読んでいるとだいぶ頭がこんがらがってくるけど、この著者のように「自立」というキーワードで読みとけば、ひじょうに話がわかりやすくなる。

 『三びきのこぶた』も『ヘンゼルとグレーテル』も、『三枚のお札』『白雪姫』もいずれも自立をしようとする子どもと、それを阻もうとする親との自立の闘いの話である。鬼や狼、魔女や鬼婆とあわされるものは、子ども自身の自立を阻もうとする気持ち、破壊的な感情が形をとったものだといえる。また子どもの自立をいつまでも阻もうとする親の心でもある。

 そういうふうに読めば『三枚のお札』の鬼婆は子どもの自立をいつまでも阻もうとする恐ろしい母親にほかならないし、『白雪姫』の継母は若さを娘に奪われてゆくじつの母親の嫉妬にほかならないということだ。昔話にこんな親への自立の警告が込められていたなんて思いもしなかったし、自分の家庭もかえりみずにはいられなかった。


44221112641_20110224133135.jpg名作童話の深層
森 省二
創元社 1989-05

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 この本では『白雪姫』『銀河鉄道の夜』『イワンのばか』『かぐや姫』『オズの魔法使い』『人魚姫』『幸福な王子』などポピュラーな童話がとりあげられていて、オトクな一冊である。

 忘れていたり、知らなかった童話のストーリーにもういちど触れられるのはオトナになってもけっこうウレシイものである。『幸福な王子』は泣けた。

 ところで童話や子供マンガに出てくる悪魔や悪というのは自分の内なる悪を志向する力のようである。だから私たちは悪を徹底的にやっつけなければならなかったわけだ。ただこんどはそれを自分の内なる心だと統合しなければならない時期がやってくる。それを外側の他人や嫌いな人に投影ばかりしていると心の成長は見込めない。


053006371.jpgアンデルセン童話の深層―作品と生いたちの分析
森 省二
創元社 1988-05

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 童話の心理学解釈のおもしろいところは、童話のいっていることが心理学的に説明されながら、もういちど童話の物語に触れられることである。童話ってタイトルとかだいたいの話を知っていても、くわしい内容まで知っていることは少ない。なるほど、こういう心理学的意味が込められていたのかと知ることは新たな驚きと楽しみである。

 この本では『マッチ売りの少女』『赤い靴』『おやゆび姫』『みにくいアヒルの子』『はだかの王様』等の心理学的解釈がほどこされている。ちなみにアンデルセンはペローやグリムとちがって創作童話であり、個人の心理分析もおこなわれている。


4566020703昔話の魔力
ブルーノ・ベッテルハイム 波多野 完治
評論社 1978-08

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 昔話の心理学的解釈の古典とか金字塔とかよばれるように、たしかにすばらしい本だ。400ページの二段組のぶあつい本だが、一行一行に深い、含蓄のある言葉が込められていて、まったく長さや倦みを感じさせない。

 昔話の意味や効用が説かれたあと、だんだんと物語解釈へと入ってゆく。現代の児童文学は衝動や荒々しい感情の葛藤の存在をまったく否定するため、子どもはそういったものをどうあつかったらいいかわからない。昔話はそういった葛藤が自分だけのものではないことの安心を知り、解決する方法も教えてくれるというわけだ。

 物語の解釈をしながら、子どもの心がどんなものだったか、どのような成長を経なければならないのかといった心の世界が、驚くほどの豊穣さと細かさをもって語られている。すぐれた物語解釈でありながら、子どもの心の内的世界の百科全書のようなものになっている。

 私はフロイトのエディプス・コンプレックスとか性的解釈にほんまかいなという気持ちを抱いていたが、この本ではじつに納得できるかたちでそれが呈示されている。『シンデレラ』の姉妹間の競争意識は親の愛や評価がその火付け役になっているのはよくわかるし、昔話によくある動物の花婿が人間の王子に変わるのは花嫁の性的抑圧がとけたからだという解釈はひじょうによく納得できた。とにかくびっしりと内容の濃い名著だ。


4-480-08325-11.jpg絵本と童話のユング心理学 (ちくま学芸文庫)
山中 康裕
筑摩書房 1997-03

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 佐野洋子の『100万回生きたねこ』は思わず泣けてくる傑作だった。100万回も生きたことを自慢するねこがそんなことをなんとも思わないめすの白ねこと出会って、彼女の死をきっかけに最期に死んでしまう話である。

 この本では絵本と童話のさし絵もたくさん載せられていて、それをながめるのも楽しい。童話によくある「なまけ」の話も読む価値あり。できないことがあったのなら外界ばかり見るのではなく、内界にも目を向け、力を得てくるという発想が必要というわけである。

 『アモールとプシケー』の話もあざやかである。住居や食べ物はふんだんにあるが、夫や召し使いの姿はいっさい見えない女性が、その禁を破って夫の姿を見てしまい、そこから試練がはじまる。

 これが象徴しているのは現状に満足してれば幸福であるのだが、意識の光が届くとその幸せはたちまち失われてしまうということである。疑問や懐疑の光を当てるのは賢明である一面、かならずしも幸福ではないのかもしれない。


4788503719.jpgグリム童話―その隠されたメッセージ
マリア タタール 鈴木 晶
新曜社 1990-06

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 さまざまな学者による解釈の戦場と化した童話解釈の総合化・審判のような本である。さまざまな学説を聞いていたら混乱することまちがいなしだし、錯乱を正してくれるような比較書はぜひとも必要だと思うのだが、でも解釈者の数と見方ぶんだけ現実があるという知見のほうがもっと大事に思える。

 この本のなかではおとぎ話に出てくる主人公たちの法則とかパターンを抽出する章がおもしろい。つらい目に会う者と探しに行く者が大方を占め、そして貧乏人や弱い立場、崩壊家庭から、金持ちや王家、新家族へと「ふたつの世界を旅する旅人」となる。

 おとぎ話ではいちばん出世しそうにもない者がいちばん出世したり、財産をすべて失って喜ぶアンチヒーローが出てきたり、いかに女性が家事労働から逃れるかといった話もあったりして、おとぎ話は順応的なイデオロギーのみを説いたわけではなかった。

 娘に嫉妬する継母の話の裏には、近親相姦的な父親の存在があり、だからこそ母親の異常な嫉妬がはじまるのであり、それをあからさまにした物語が削り去られていった経緯もなかなか興味深い。グリムは性的な話は徹底的に削除し、暴力的な場面はかれの検閲をとおりすぎたようである。

 この本はさまざまな学者の解釈によって暗い森でさまよったときにはうってつけの本であり、一筋の光となることだろう。いろいろな解釈をそそぎこまれるとほんとに混乱するが、私としてはユング派の解釈はいまいち頭で理解できなく、松居友とブルーノ・ベッテルハイムのフロイト派の解釈がいちばんしっくりときたし、「好み」でもある。


 むかしの書評。「物語を読む―童話心理学」 2001/3

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