HOME   >>  書評 社会学  >>  『パリ・ロンドン放浪記』 ジョージ・オーウェル
12 10
2010

書評 社会学

『パリ・ロンドン放浪記』 ジョージ・オーウェル

パリ・ロンドン放浪記 (岩波文庫)パリ・ロンドン放浪記 (岩波文庫)
(1989/04)
ジョージ・オーウェル

商品詳細を見る


 先に似たような貧困記録としてジャック・ロンドンの『どん底の人びと ロンドン1902』を読んだのだけど、ロンドンのほうが社会観察記として優れていたと思う。オーウェルのほうは自分の体験記だけで、社会を見わたす視線がない。

 ロンドンのほうは社会主義をめざしたと思われるために貧困生活がこれでもかというほど悲惨に描かれるのだが、オーウェルはただ自分の率直な体験記だけである。オーウェルは評論集などたくさん出されて評論家としての目も評価されていると思うのだが、この書においてレストランにたいする慧眼は光っていると思うが、貧困階級全体を見わたそうとする目はもっていなかったようだ。

 オーウェルは仕事が見つからないための綱渡りのような極貧生活から筆をはじめる。皿洗いの仕事を見つけるのだが、一日17時間の長時間労働を体験して、パリの労働者階級の人たちがどんな生活に押し込められているか赤裸々に描き出す。こんな生活を何十年もしている人がパリには何千人もいるのだ。

 オーウェルは社会や仕事がどうなるべきかをほとんどいわず、ただたんたんとこの生活をつづるだけである。イデオロギーを通さないで労働者の生活がどのようなものか、ただ純粋に描きたかったのだろうと思う。もし社会主義をのぞんでおれば、下層階級の生活をことさら悲惨に描いて革命の望みや待望をうきぼりにしなければならなくなるだろう。ロンドンの筆記にはそんなものが感じられたが、オーウェルにはそれがないようだ。ただ「わたしの貧乏記録」といった感じのルポである。

 ロンドンではスパイクという浮浪者のための宿泊所に泊まる。浮浪者とともに生活をしながら、浮浪者もふつうの人間となんら変わりはないのだという観察をおこなう。オーウェルはほんとうにお金がなかったのか、下層階級とともに生活をしてかれらを観察したかっただけかはわからないが、階級社会というものがイギリスにあるとするのなら、そんな偏見の色メガネで見ない下層階級をのぞいてみたかったのかもしれない。

 皿洗いの仕事はしごく単純なものであるが、一度にたくさんの仕事が押し寄せてきて、単純で鈍感であってはやってられないことを知る。短時間で一度に多くの仕事を効率よくこなさないと仕事をさばききれないのだ。一日17時間の労働で睡眠と労働だけの世界のはしごだけになり、外界は消滅してしまう。そんな生活を何十年もつづける労働者がたくさんいるのだ。ホテルやレストランの観察にはオーウェルの慧眼が光る。

 こんな生活を知らない上流階級というものがイギリスにはあり、オーウェルはそんな生活を世間に知らせたかったのかもしれない。

 さいごにオーウェルの名言。「…貧乏には同時に大きな救いがあることを発見するのだ。将来というものが、消えてしまうのである」

 ちなみにオーウェルやロンドン、エンゲルスの貧困記録をわたしが読んだのは、2008年の世界的株価暴落によって世界大恐慌の再来がやってくるかもと思ったからだった。いまは平穏だが、ギリシャやスペインで財政破綻が迫っている。第二の危機はやってくるかもしれない。そんな事態に備えるための心構えをこれらの書は与えてくれるだろうか。


動物農場 (角川文庫)一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)オーウェル評論集 1 象を撃つオーウェル評論集 2 水晶の精神オーウェル評論集〈3〉鯨の腹のなかで (平凡社ライブラリー)

関連記事
Comment
Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top