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![]() | ぐうたら学入門 名本 光男 中央公論新社 2005-10 by G-Tools |
アンチ勤勉を唱えたところで、カネや身分で優劣が決まる世の中で、安寧な心を保つのはむずかしい。会社勤めのなかでは長時間勤務があたりまえである。何冊かアンチ勤勉の本を読んでも、どうしようもないという思いが強くなって、読んでもムダという気持ちに傾いていたのだが、読んでみると内容は説得性があって、癒された。
ぐうたらや怠けを善しとする価値観を日本の昔話から探り出すという本であるが、現実にはなんの効用もない結果になると思うのだが、気もちがなごやかになるというのは意外な発見であった。競争的価値観を落としてくれるからだろうか。
闘わなければならない価値観はたぶん勤勉にならなければメシが食えないとか日本が競争に負けるだとか、カネやモノや身分がなければみっともない、みじめだという価値観なのだと思う。アンチ勤勉を唱えたところで、私たちは絶対になごやかに怠けることはできない。何冊かのアンチ勤勉の本を読んでいつも思うことである。
よい言葉をいくつか。
「就学前の子どもたちにとって、一番大事なのは「いま」。いま楽しく遊べるか、いまどれだけ気持ちよく寝られるか、いまどれだけおいしく食べられるか。~大人にとって~そんなことより、今晩飲むだろう冷たいビールのことでも考えながら、無意味な「いま」ができるだけ早く過ぎ去ってくれるのを待っている」
「私たちが<まめ>であることによって利益を得るのは、果たして私たち自身なのか、それとも……。少し目を凝らして、いまの日本や世界の姿を見回せば、答えは自ずから明らかだろう」
「私たちは、幸福とは有り余るモノに囲まれながらも、さらに新しいモノを求め続ける先にあると思ってきたが、サン(ブッシュマン)にとっての幸福とは、できるだけ楽しい時間を過ごすことにあるのである」
「獲物を射止めてキャンプに帰った(サンの)ハンターは誰かに尋ねられるまで黙って座っている。人々は、こうした普段よりもかえって控え目な態度から彼が大きな獲物を倒したことを察するのである」
「~「贈り物」の際に、私たちが謙遜して「つまらないものですが……」と言い添える習慣だ。~私たちはそれを卑下することによって、贈り物を受け取る立場の人と贈る「私」との間に上下関係ができないようにしているのではないだろうか。
▼怠け者のすすめ




▼追記 また著者本人からメールをいただきました。ありがとうございます。
「社会の役に立たなくとも、どんな人にも価値がある」というメッセージを伝えたかったそうで、言いたいことの十分の一も書けなかったそうです。なぜ癒されたのか、これで納得できました。セラピー・ブックのような気がしていました。
ただ、どんな人にも価値があるといえば、それはまだ「社会にとっての」価値を気にしているわけですね。あえてその価値を積極的に捨てようとした良寛や隠遁者にも学ぶべきものがあると思いました。



