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12 11
2009

書評 労働・フリーター・ニート

『正社員が没落する』 堤未果 湯浅誠


正社員が没落する ――「貧困スパイラル」を止めろ! (角川oneテーマ21)
堤未果 湯浅誠

正社員が没落する  ――「貧困スパイラル」を止めろ! (角川oneテーマ21)


 雇用が壊れかけているが、いちばんの問題は中流層、正社員といった層が、まだ安定した、保障された社会があるんだと危機感を抱けないことにあると思う。非正規や派遣切り、貧困やホームレスは一部の人の問題であり、本人が悪いとか非難することで終わっており、自分たちの問題、社会全体の問題と思えないことにあると思う。非正規、貧困は雇用全体を劣化し、かならず中流層を落とし込む。堤未果のアメリカ貧困ルポはその警鐘を鳴らしているのである。

 1965年から75年の日本の名目賃金は五百パーセント上がっている。5倍である。だからこの時代を経験した人は会社についていけば大変かもしれないが食っていける、「じっと我慢していればそのうち良くなる」という幻想が抱けた。住宅や教育費などの福利厚生も企業が増発した。日本社会はこの時代の認識、世代の意識のままいままできているから、若者の非正規や貧困の意味や事実が理解できないのである。むかしは個人や資質の問題でふたをできたが、いまは構造的、社会全体のトレンド、趨勢なのである。この世代間ギャップが日本にたいそうの欠落や被害を生む。

 先進工業国というのはある時代まで安い商品を輸出してどんどん豊かになるが、ある時点から後発国から安い商品がどっと流れ込む。国内の雇用が価値をなくして、これで壊れる。非正規はこの流れの前触れであり、未来の現状である。正社員は関係ない、いままでみたいに守られていると思っていたら、半額ではたらく非正規と比べられて賃金ダウンか、もしくは過剰労働に導かれるのがとうぜんだ。貧困や非正規を放置していたら足をひっぱられて正規の労働条件も悪くなり、さらなる雇用の劣化がぜんたいに襲う。これを貧困スパイラルとよぶ。貧困や非正規の問題は自分たちの足元の砂が掘り崩されることと同じである。

 非正規は未来であり、正社員は過去なのである。非正規は先進国の下り坂であり、正社員は過去の上り坂であったわけである。だれかが悪いとか、本人が悪いとかの問題ではない。経済や社会の趨勢、構造のなのである。その認識ができていないところに現在の不幸がある。正社員が家族をやしなえたシステムは終わるのであり、非正規でも家族をやしなえる社会システムづくりが求められるのだろう。正規や非正規でいがみあうのではなく、家族や教育、住宅などの高コスト体質を標的にして、非正規でも安く生きられる社会にしなければならない。いわばシングルマザーがパートでも生きられる社会にしなければならないということかもしれない。

 アメリカでは自分の職業に誇りをもち、尊敬される立場であった医師や教師、公務員、管理職、ホワイトカラーなどの没落がおこっている。自分たちは中流より上であり、貧困とは無縁と思っていた人たちのプライドや価値観を根こそぎにしてしまっている。中流層の没落は貧困層よりはるかに自尊心の打撃が大きい。「まさか自分がこうなると思っていなかった」人たちが貧困や野宿に転げ落ちる。日本でもこの事態が進行しているとしたら、自尊心の屈辱や崩落をどう防ぐかが課題になるだろうし、現実認識の拒否にもつながり、それが非正規や貧困問題を遠ざけ、解決の道を遅らせてしまっているのかもしれない。

 厚労省の職業安定局の室長は「このまま行ったら日本はどうなちゃうんだろうな」とつぶやいたそうだ。もう国の官僚すら手をつけられないといったありさまなのだろう。雇用劣化スパイラル、貧困スパイラルはそれほどまでに深刻なのだろう。

 この本は非正規や貧困は自分たちに関係ないと思っている中流層や日本社会に自分たちの問題ですよとつきつけるために書かれた本なのだと思う。雇用の砂は足元から崩れているのだ。分断やいあがみあいではなく、社会全体の問題として認識してゆくことが大切なのだろう。しかしこれらを報道するニュース番組も非正規が多くを占めており、とうぜん経営層はこころよく思わないことだから、問題の難しさが知れるというものだろう。


湯浅誠が語る「現代の貧困」 (シリーズ時代を考える) 派遣村―何が問われているのか 排除の空気に唾を吐け (講談社現代新書) 労働、社会保障政策の転換を―反貧困への提言 (岩波ブックレット) ルポ 雇用劣化不況 (岩波新書)
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Comment

こんにちは。

私自身が当の没落寸前の正社員でありますので、まるで自分の為に書かれたような気がしてしまう本ですね。堤未果のアメリカ貧困ルポも以前に読みましたがまさに狂った資本主義社会の末路のようです。
個人個人出来る限りの努力をしてそれでダメならそのときはそのときですよね。自分の内面と深く向き合い掘り下げていくにはむしろいい時代なのかもしれません。少々自虐的ですが・・・。

たいようさん、こんにちは。

没落は個人の資質のせいではなく、社会ぜんたいのトレンド、趨勢だと考えるほうがいいのでしょう。社会経済の要因を個人で背負い込むのは重過ぎるというものです。

いまの時代は高度成長のネガ、逆パターンなのでしょう。アップした分、ダウンも激しいというわけです。

ただ、上るより、下るときのほうが心理的にはツライのでしょうが。ショックは恵まれた人のほうがはるかにキツイでしょうから、恵まれていなかったほうが下り坂の時代にはよかったかもしれません。

落葉の季節には自尊心の否定に強くなる精神がもとめられるのでしょう。
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世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。神秘思想、仏教、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

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