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11 10
2009

労働論・フリーター・ニート論

壊れてゆく雇用と日本人の奴隷性



 NHKで「作家・重松清が考える働く人の貧困と孤立のゆくえ」をみた。秋葉原無差別殺傷事件、年越し派遣村から、こんにちの労働、雇用状況をさぐったインタビュー集であった。秋葉原事件は去年の6月におこったなんて、もっとむかしの出来事に思ってしまっていた。

 いまの最低賃金の決まり方は、主婦パートや学生アルバイトの時代に決まったもので、いまはアルバイトや派遣の時給だけで生活したり、家庭をもったりする人がふえたので、これを見直さなければならないのはとうぜんだろう。むかし補助的な仕事と思われていたもので生計をたてなければならず、こういう時代の変化のはざまの低賃金でワーキングプアや苦しんでいる人が大量に生まれているのだ。

 企業や産業界は狡猾である。企業は補助的な仕事であるということで主婦パートや学生アルバイトの時給を安く抑えて人件費を抑えることができたから儲かることができた。コンビニのアルバイト、ファミリーレストランのアルバイト、サービス業のアルバイトなどはみなこの補助的仕事の最低賃金の恩恵をうけている。それを一般の一家の大黒柱の人たちにもこのような最低賃金でつかおうとしてしまったから、おおくの貧困者が生まれてしまったのである。ゆでガエルとはまさにこのことだ。

 いまは非正規がかわいそうということになっているが、正社員も長時間労働や徹夜労働などで過酷な目に会っている。アルバイトや派遣は賃金が安く抑えられて時間給だが、正社員は時間に縛られないでどこまでも働かされる。たとえばチェーン店の店長を管理職待遇にしてしまえば、労働時間の制限をなくして無際限で働かせることができる。アルバイトは時間の制限があるが、正社員は時間の制限をなくした時間地獄の働かせ方がされている。

 年越し派遣村で日本の労働状況が壊れている、おかしくなっているとおおくの人も気づきはじめたのだが、はっきりいってこんな状況は十年や二十年まえからはじまっていた。マスコミや世間が気づいたり、騒ぎ出すのはあまりにもタイムラグがありすぎ、そのあいだおおくの人が過酷な労働条件のもとで現実に生き、働かなければならなかった。そもそも大マスコミは労働者や一般人の味方なんかでなかった、マスコミが助けてくれるなんて甘い期待をいだくのがまちがっているのだろう。秋葉原事件はそういう状況の自殺テロをおこなったのだろう。

 日本の雇用状況はいつからこんなに壊れてきたのだろうかと思うが、さかのぼればむかしから日本の雇用状況というのは壊れていた。むかしは終身雇用という滅私奉公や一身をすべて会社に捧げなければならないという壊れ方をしていた。無際限な自己犠牲が強要される労働社会であった。大マスコミはそういう働き方を理想や失われた郷愁としてもちあげるのだが、自分たちが三食メシつきだから刑務所に入りたいという犯罪者と変わらないということに気づかないのだろうか。

 派遣やアルバイト、名ばかり正社員、こういう雇用の壊れ方の元凶、要因をさぐれば、日本の労働者の弱さ、無力さ、立場の弱さ、従順さ、奴隷性にいきつくというものである。企業や産業界に対して、労働者個人があまりにも弱すぎ、立場が奴隷的すぎるのである。終身雇用時代に守られていたのではなく、このような弱さが企業の丸抱え福祉によって見えなくなっていただけなのである。いま労働者のほんらいの弱さが露呈しているだけなのである。

 この日本人、労働者の弱さはどこから生まれてくるのだろう。まるで奴隷のような弱さを、日本の労働者はもっている。だからアルバイトで正規雇用なみの働かせ方をされたり、かんたんにクビが切れる派遣を増殖させたり、正社員は無際限に働かされるのである。企業や産業界に対抗する社会集団や中間組織といったものがなかったり、社会世論や社会風土の抵抗や強さがない。こんな働かせ方をしてはいけないという断罪や抗議をして労働者を守る世論もないし、社会集団もないし、権力の集まりもない。企業や産業界の歯止めや抵抗勢力が日本にはまったくないのである。労働組合は無視してよい存在だ。いわば人間としての集団、勢力、権力がないのである。だから労働者はどこまでも企業のいいように働かされるのである。企業が無際限の権力をもってしまって、抵抗する勢力がまるのでないのである。

 人と人との契約や交渉というのは、力の大きさによっておおきく条件が変わってくる。たとえば国家間でいえばアメリカのような強大な国は弱小国にムリな条件や不利な契約を押しつけることができる。はっきりいえば力の強いものは思いのままに有利な条件を手に入れ、相手に不利な条件を押しつけることができる。知識や基準すら力の強いものにゆがまされる。日本の労働者はまったくこのような弱い対場に立たされていて、まるで奴隷のような条件ばかり飲まされている。権力や力のない状況こそが、労働者の弱さ、雇用の壊れをつくるのである。日本人の無抵抗、あきらめ、奴隷性はこのあたりから生まれてくるのではないだろうか。

 ことしの高卒の内定率は37%とい驚異的な数字だし、失業率も5,4%ということだが、こんにちのハローワークを通さない就活はもっとおおいのは確実だから、雇用状況はかなり悲惨な状況になっている。ふつうなら餓死者や暴動が起こりそうな状況だととらえるべきだ。失業率はほかの雇用条件にもドミノ倒しのように影響をあたえるから、労働者はますます買い叩かれ、ぼろぼろに使い捨てられてゆくだろう。

 労働者、日本人は狡猾で、強く、卑怯で、損得にめざとい功利的な利己主義者にシフトしないと、力に買い叩かれて不利な条件ばかり飲まされる下り階段を落ちて行くばかりなのだろう。おとなしくしていれば、強いもののいうことを聞いていればいいようにしてくれるといった幻想は通用しないのだろう。日本人はどんどん奴隷の階梯を落ちていってる。狡猾な力には狡猾な力で抵抗しないと、ますます見くびられ、いいように使われる。

 むかし日本では労働争議や労働運動などかなり激しい、怒りや激突に燃えた時期があった。そうしなければ守れない、殺されるような状況があったのだろう。また同じような労働条件が、19世紀的な労働状況がもどってこようとしている。「目には目を、歯に歯を」の訓戒が必要になる時代なのかもしれない。雇用がなくなり、人々の暮らしがなりたたない社会になれば、放っておいても犯罪がふえ、世間が騒乱としてくるものである。犯罪や事件にまきこまれる見聞もひろがってくるだろう。サバイバルが過酷な時代には強く、狡猾に生きなければならないということだ。豊かな社会、福祉に守られた会社の夢うつつから目を覚まさなければならない。

 
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Comment

以前うえしんさんは、現状から抜け出すために、スキル・資格取得を目指すということを書かれていましたが、それはどうなっているのでしょう。
これだけの読書をする知性・余裕を、仕事に向けていれば人生も違ったものになっていたのではと残念でなりません。

らしくないですね。

大企業が強くて労働者が弱いのは、日本だけではないのでは?

また、大企業も別にウハウハではなく大競争に青息吐息。労働者が強すぎれば、古くは国鉄、今ならGMやJALのような末路です。

お疲れですか?

私は、うえしんさんの雄叫びに読めましたよ。

STOさん、こんにちわ。

失業の危機感からスキルや資格の勉強をしなければと思ったのですが、なかなか有益で価値のある勉強というのはみつからないものです。

というか、私は実用性のない知識ばかりに価値をおき、実用的な知識にあまりおもしろみを感じないタチなのかもしれません。

これではキリギリスとして生き、冬に死ぬしかないですね。なんとか勉強の方向を考えたいですが、いまは模索中としかいえないですね。

fn.lineさん、こんにちわ。

日本はヨーロッパと比較すると、休みやバカンスの考えでそうとう凄惨と思うのですが。「カローシ」なんて言葉は西洋にはありませんから、日本語独自の表現しか生まれなかったわけですね。

国鉄やGM、JALなどはたしかに労働者に食われすぎていますね。しかし、おおかたの日本人の働き方は少数の大企業のような恵まれた働き方をしていません。大企業の一般化は日本の労働者にあてはまらないでしょう。

日本の労働者の弱さを問題化しないといつまでたっても、人間らしい生き方、余裕をもった生き方はできないでしょう。いまの官僚解体の民主政権はこれまでの「生産マシーン」国家からの脱却が願われたから、政権交代がおこなわれたと私は思うのですが。

ばななさん、こんにちわ。

あいかわらずひいきにしていただき、ありがとうございます。

いま雇用が壊れてきたのですが、むかしから日本は雇用が壊れていたと私は思ってきました。滅私奉公の福祉ヅケで、人生を奪われてきたと思っています。いまはその本質がクビ切りやアルバイトなどで目に見えるかたちに顕在化しただけだと思っています。

人間らしい生き方を追求する社会にならないと、いつまでたっても「企業栄えて国民滅ぶ」国にならざるをえません。国民のだれがそんな国をめざしたいというのでしょうか。

お返事が頂けるとは、ありがとうございます。
還元されていない富は一体どこに行ってしまったんでしょうね。

そうなんだ

確かに、滅私奉公も、今のクビ切りも、首根っこを抑えられているという点では同じですね。戦後、高度成長、90年代、そして今とふり幅はあるにしろ、やられっぱなしという現実はあると思います。本人等が意識するかどうかは別にして。直近では、18-19世紀から、我等に冨は「還元」されないようになっていると思えます。
「人間らしい生き方」というのは、推測にしかすぎませんが、多様なイメージがあるのかもしれません。もちろん、つくられたそれとして。

なお、日航への支援、海外航空会社からの「資金援助」の話を聞くと、日航だけに「冨」は、世界に羽ばたいていったのではないでしょうか。

ばななさん、こんにちわ。

この労働者の弱さはどうにかならないかということはずっと考えてきたことです。終身雇用や社会保障はけっして労働者が守られていたのではなくて、無際限の奉仕のためのアメだったと思います。

守られていると油断している間にこんにちの雇用の壊れが表面化したのだと思います。

けっきょく日本は産業や企業がつよすぎて、労働者や個人が弱すぎるのだと思います。そこから政治や社会の力となるラインがつながっていないんだと思います。だから際限なき奉仕から、際限なき派遣切りや酷使へとつながってゆくのだと思います。

こんにちの雇用危機をきっかけに雇用の力関係を変えてしまう規定、下支えをつくっておくべきなのかもしれません。

日航の空に飛んでいった富はまさに日本の姿そのものですね。

>狡猾な力には狡猾な力で抵抗しないと、ますます見くびられ、いいように使われる。


「忍従とか謙譲を義務とするあらゆる宗教は、市民に対して消極的な勇気のみしか鼓吹しない」

「高慢な相手には、屈従すれば勝てると考えるのは誤りである」

「キリスト教の信仰は、善良な人々を暴虐不正な者どもの餌食にしてしまった」

以上はマキャベリの言ですが、人間社会の本質を鋭く捉えています。現在の日本社会にも殆どそのまま当てはまるでしょう。「マキャベリズム」などと言うと、「権謀術礼賛」として否定的に見られることが多いのですが、そもそも民主主義の思想が激しい闘争の中で生み出されてきた歴史を考えると、その根底にはマキャベリズムがあると愚考いたします。(ルソーが「君主論」を、「共和主義者のための教科書」と評しているのは象徴的ですね)。つまり社会を変えていくには、偽善的な虚飾を排し、醜い現実を直視することが必要なのではないのでしょうか。

>サバイバルが過酷な時代には強く、狡猾に生きなければならないということだ。

「目的のためには、手段を選ぶな」(「君主論」)

さーさいてぃーずさん、こんにちわ。

マキャべりはその必要性を感じて私も読みました。読んだ文脈は人間関係の闘争、権謀策術のさなかでしたが。

日本はこれまで企業の終身雇用や企業福祉が手厚いと信じ込まれたきたために、90年代から企業が狡猾に買い叩くようなかたちで、労働者を軽くあつかったり、酷使や賃金を下げたり、福祉を放棄したかたちに変化したことに対応できなかったと思うのですね。

まだ一部では企業は私たちのために尽くしてくれる、報いてくれるという神話をつよく信じている人がいるようですが、非正規で酷使される人がふえた現在、そんななまやさしい性善説で企業と対等にわたってゆくことはできないと思います。

狡猾に戦闘的に、策略的に生きていかないとこれからの日本人は生きてゆけなくなると思います。従順に上や力のあるもののいうことを聞いていれば、終身まで面倒を見てくれるという時代は終わったのだとしっかりと認識しないとこれからの時代は生きてゆけないのでしょう。

マキャベリ的心性を身につけなければいけないのでしょう。

いま、橋下徹市長は、企業の兼業禁止を禁止することを方針とするとしています。終身雇用をなくし、兼業禁止をなくせば、中小企業は大企業に統合されるとさえ言われています。そして、複数の仕事をこなすギルドに労働者は所属する事で、技術に対する正当な対価を実現すると言われています。組合も定額の組合費の名目で搾取されていますが、ギルド制に於いては得られた対価に応じた手数料になると言われています。もちろんギルドは掛け持ちもできます。さらに資産課税・付加価値税(労働者を安く買いたたけば税金が重くなる)すれば奴隷性はある程度緩和されるでしょう

国鉄の轍をふむな

国鉄は、ここで言う国労という闘争団体によって、最終的には国民に際限ない運賃の値上げという形で国民の理解を得られなくなり、滅んだと言われています。企業に対等に小突くのは必要ですが、やりすぎると国鉄になり、生活必需品の値上げにつながります。まずは兼業禁止を法律で禁止して、個人がもつ技術の市場競争を有効に機能させる必要があります。もちろん、市場に参加する個人は、売れる技術を持って、企業と対等でいられる力を付ける教育や意欲は必要です。市場の公平性が日本には必要です

働き方について

正規と非正規の職分をはっきり色分けすればいい。
正規は会社と仕事の都合に自分を合わせる、自分の都合は許しません。その代わり雇用と収入を保証する。
非正規は働いた時間分の収入は保証するが雇用は会社の都合で割り振ります、その代わり会社と仕事の都合より自分の都合を優先することを許す。
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