なぜいまこのドラマなのか



 あたらしいドラマを見だすといちばん気になるのは、「なぜいまこのドラマがつくられるのか」ということである。年のせいか興味あるドラマがだいぶ減ってしまったが、こんかい『小公女セイラ』と『JIN−仁』が気に入ったので考えてみよう。

 小公女 (新潮文庫) 小公女(プリンセス)セーラ(1) [DVD]

 『小公女セイラ』はTVアニメでも放映されたことがあり、バーネットの1888年の作品である。アニメのほうはいじめや虐待がひどくて暗い気分になる、見ていられないということだったそうだが、私は見ていないし、原作も読んでいない。

 あらすじは大金持ちのセイラが父の死亡により一転して寄宿学校の女中奉公として転落し、いじめや被差別をうけるというものである。なぜこんなドラマがいま?と思ったが、志田未来のためのドラマかと思ったが、階級転落はこんにちの日本におこっていることであり、まさしくタイムリーな作品であることに納得した。

 現代日本では一億総中流の平等社会がくずれ、格差社会や下流社会、めぐまれた正社員と不安定な非正規という不平等な現実がみるみるひろがっている。セイラは階級転落をみごとに具体化した存在である。ほかの生徒より金持ちで優秀だった生徒が一転、一文なしで下働きとしてはたらかされる。

 屈辱や恥辱にまみれ、めぐまれた境遇から一挙に鼻をへしおられ、おまけに生徒たちからのいじめや嘲りの対象に転落してしまう。まさしくこんにち日本でおこっている中流からの転落をうたっているのである。『小公女セイラ』はそのような境遇に落ちても強くたくましく現状を肯定する生き方をわれわれに教えてくれるというわけだ。

 時代的にはこういう読み方もできるが、普遍的な内容としては、私は女性の男から養われるのがあたりまえ、女は男に奉仕されるのがとうぜんだという意識への批判もふくまれていると思う。セイラはめぐまれた働かない暮らしから一転して下働きの労働の苦しみに出会う。

 女性はお金のある男性と結婚すれば働かないめぐまれた暮らしを手に入れられるが、そのために男性を召使やただの収入の道具としか利己的に考えず、功利的に男性を利用する手段としてとらえがちだ。セイラはこのような高慢な精神の鼻をへし折られた存在だということができる。いわば専業主婦批判とも読めるだろう。うまい汁だけを吸おうという女性を戒めている。

 原作のバーネットの作品はよくできたものなのだろう。少女に転落したときの心構えや強さを教えようとしているし、与えられるだけの存在と思う女性や少女の高慢さ、利己主義をきつく批判している。転落を経験した後にそれが転落ではなかった、人間としてのあたりまえの生き方なのだと悟れる人間に成長してほしいものである。労働を転落ととらえる考え方こそ、転倒した考え方と知らなければならないというものである。

               ■

JIN―仁 (第1巻) (ジャンプ・コミックスデラックス)JIN―仁 (第2巻) (ジャンプ・コミックスデラックス)JIN―仁 (第3巻) (ジャンプ・コミックスデラックス)

 もうひとつの考えたいドラマは『JIN-仁』である。村上もとか原作の現代の外科医者が幕末の江戸にタイムスリップするという話である。けっこう人気があるようだし、興味がわくドラマである。

 私のサイトでは「江戸時代の写真が見られます。」というページが一番人気なのだが、このところアクセスがふえているのは、この『JIN』特需のせいなのだろう。ものを書く私としてはこのページが1位なのはあまりうれしくないが、二次情報のほうが価値があるのだろう。

 なぜこのドラマなんだろうと考えをめぐらして、マンガ喫茶で原作を読んでみたが、どうもよくわからない。なにかこの作品は幕末に現代の外科医をタイムスリップしてみたらおもしろそうだとか、幕末の坂本龍馬とか勝海舟を登場させてみたらおもしろいだろうという興味本位の発想しかないように感じられるのだが、それだけでいい作品なのだろうか。

 むかし『猿の惑星』という映画にTV版があったのだが、これも先進の医学知識をもった人間が未熟な医療技術しかもたない猿を救ってゆくが、感謝されはするが毎回、権力のある猿に追われて逃げてゆくという話だった。

 これは先進の知識をもった人間が未開の人間を教えて救ってゆくという優越感や正義感がここちよい作品であったが、この「文明化の使命のイデオロギー」は非文明国と称される非西洋を侵略し、虐殺し、蹂躙する都合のよいイデオロギーに利用された歴史があるから、警戒心をもって接したい作品である。

 『JIN』にもこの優越感をくすぐり、江戸時代、むかしの人をバカにする「先進国/進歩主義時代観」の落とし穴があるから気をつけたいものである。現代が進んでいるという考えは、技術礼賛の風潮をつくりだすが、人間はむかしもいまもたいして変わらないと考えるほうが妥当である、むかしは愚かだったと考えるのは反省したほうがいいと思う。いわばこれは他人を自由に変えてもいい、好き勝手に料理してもいいという考え方の別バージョンで、こんな考えをする人にまとわりつかれたいと思うだろうか。

 『JIN』はたんなる幕末を物語として実感したいという思いのためだけにつくられた作品なのだろうか。タイムスリップものの自己の行動が時代を変えてしまう恐れを問題化したものであったとしたら、それは物語空間内の問題であって、現代の社会問題とかかわってくる問題ではない。『JIN』のテーマやメッセージはなんなのだろうか。

 幕末を現代に重ねているのなら、おおいに見がいのある作品ということができるだろう。まあ、まだよくわからないが、『JIN』の意味を考えながらドラマを見たいと思う。


優越者の権力イデオロギーの恐さ、過ち
帝国意識の解剖学 (SEKAISHISO SEMINAR)表象の植民地帝国―近代フランスと人文諸科学南島イデオロギーの発生―柳田国男と植民地主義 (岩波現代文庫)

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