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05 28
2009

書評 小説

村上春樹には言葉の楽しみと孤独を学んだ



 村上春樹の7年ぶりの新作長編『1Q84』が、初版発行部数が48万部となってニュースになっているようだ。タイトルはオーソン・ウェルズの『1984年』にかけているようだ。

 1Q84(1) 1Q84(2)

 エルサレム賞での「卵と壁」のスピーチで株を上げたようだ。しかし村上春樹の認知度ってどのくらいなんだろうと思う。小説好きな人なら知っている人は多いだろうが、本を読まない人や小説をまったく読まない人もたくさんいるのだから、けっこう知らない人も多いのではないかと思う。今回の新作でまた違った層の読者が飛びついたのかもしれない。

 村上春樹は世界的に読まれていて、カフカ賞受賞とかノーベル賞候補とかに挙がったから、いままでと異なった層が新たに付け加わったのだろう。あえて推測するのなら、こんかいは「日本ナショナリズム層」ではないかと思う。日本の文化に自分の自慢やナショナリズムを満足させる層だ。しかしはたして「お国自慢」を探す層に村上春樹の作品はピンとくるだろうか。川端康成みたいに古典的日本美というのはないし、はてと首をかしげるのではないだろうか。

 私も村上春樹がどうして海外で評価されるのかわからない。都会的スノッブや先進国のセンスみたいなものが好まれるという表層的なものでウケているのではないかと、私は自分の低い読解レベルに応じた解釈しかできないのだが、村上春樹ってほんとうに深い文学性ってあるのだろうか。

 私には読めないというか、私は自分の好きな軽い、乾いた文体の初期の村上春樹が好きで、それだけでいいと思っているから、あまり文学性やテーマがどうのこうとかはつっこまなくてもいい。

 村上春樹のよさというのは、言葉の楽しみを教えてくれた作家だと思う。物語なら映画でもドラマでもマンガでも代替できるが、村上春樹は小説にしか表現できない言葉の楽しみを教えてくれたと思う。とくに「羊三部作」と呼ばれる初期の作品の言葉の楽しみには感嘆して、しびれた。まあ、それは影響をうけたヴォネガットのブラックユーモアの楽しみでもあるわけだが。マンガも映画もある時代に活字や言葉で表現する媒体の楽しみ、おもしろみを教えてくれた稀有な作家が村上春樹だと思う。

羊をめぐる冒険〈上〉 (講談社文庫)羊をめぐる冒険〈下〉 (講談社文庫)風の歌を聴け (講談社文庫)1973年のピンボール (講談社文庫)

スローターハウス5 (ハヤカワ文庫 SF 302)猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを (ハヤカワ文庫 SF 464)

 『ノルウェイの森』に私が影響を受けたのは、友達や仲間がいなければならないという学校期間に叩きこまれた「集団主義」に抗してもいいというひとつの信条であったと思う。まあ、『ノルウェイの森』のメイン・テーマとずいぶんズレるが、主人公の友だちのいないずいぶん孤独な生き方に私は強く感化を受けて、影響された。私は「友だちがいない奴はクラい、つまはじきな奴だ」という学校で刷り込まれた信条から抜け出す道がある、そのような生き方のほうがカッコいいんだということをこの小説から、衝撃的に学んだ。まったく主テーマではないのだが、私はこの側面の『ノルウェイの森』にひじょうに強く影響されたのである。

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

 そのほか、あるいはその後の村上春樹は私の好きな部分をもっていない、あるいは失っていったように私には感じられた。だからそんなには好きにはならなかったし、読むことも少なくなっていった。世界で読まれ、評価が高まってゆく村上春樹は私の好んだ村上春樹とまた違った側面で評価されているのだろう。まあ、私の好きな村上春樹と軌道はそれてしまったが、私は村上春樹によって、映像やマンガの時代に言葉や読書の楽しみに開眼させてもらえ、たくさんの人文書と出会えたのだから、感謝と表敬の念を忘れることはないだろう。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)
ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編 (新潮文庫)ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)
海辺のカフカ (上) (新潮文庫)海辺のカフカ (下) (新潮文庫)

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Comment

200Q

お久しぶりです。

何年か前に 「今回が最後・・・」 という僭越な言い方をして消えた者です。
お呼びではないかもしれませんが・・・。

実は、ブログを継続して読ませて頂いておりました。
うえしんの考え方は世相におもねるところがなく、とても参考になります。

世にはあまたの職業作家がいますが、曽野綾子、村上春樹といった孤高の存在を除くと、
提灯記事ばかり書く 「しつこい、毒々しい、こせこせした、その上ずうずうしい」(漱石 『草枕』 より)
アホな連中ばかりで哀しくなります (スミマセン)。

話は変わりますが、断想集の方にある 「緊張を解けない」 のエッセイは本当に凄い!
僕自身、首から腰に掛けてコチコチで、生活もままなりません。

この苦しみから解き放たれたいものです (自分で自分を縛っているだけなんですけどね、多分)。

村上春樹の 『海辺のカフカ』 でも、ナカタさんというおじさんが、カラダの
歪みがいかに危ういかを説いていて、それが箴言のように響きます。

ちなみに、実践編としては、僕はこの人から多大な影響を受けました。
格闘技界の 「生ける伝説」 との事です。

▼ヒクソン・グレイシー (4分15秒)
http://www.youtube.com/watch?v=wH31NDIlFIM

この人のヨガは 「タリ・ヨガ」 という流れであり、これによって酸素が血液中に有効に運ばれるようです。


最後になりますが、村上春樹の新刊は予想以上に面白いです (上巻の1/3まで読みました)。

今後もうえしんさんのブログを応援しております。

訂正!

うえしんの考え方は世相に

→うえしん「さん」の考え方は世相に

大変、失礼致しました。

たいく~んさん、お久しぶりですね。
人生の価値観や考え方を大幅に変えることは人生で何度か必要なのだと思います。私も価値観を変えなければならない時期にきているのかもしれません、厄年ですしね。

体の緊張、こわばりは自分でつくっているはずなのですが、自分で解けないのがむづかしいところですね。感情の身体の起動の装置というのは無意識ですからね。体の姿勢や考え方、ふだんをどんな感情で維持しているかといった心構えから調整してゆく必要があるのでしょうね。

あとはストレッチがきくのでしょうね。私は首をうつむけて組んだ手で下に押しつけるストレッチが好みです、角度をかえたりして。首筋に固い緊張が感じられ、緊張信号を意識的に解く方法は、自分の緊張の度合いを教えてくれます。

『1Q84』はTVニュースでとりあげられるほどの話題になっていますね。村上春樹というのは世界的な作家、国民的な作家でありながら、同時にマイナーな人知れない作家であるというイメージもぬぐい去ることができません。こんかい、ほんとうにメジャーな作家になったのでしょうか。まあ、これは小説という、読まない人はまったく読まないというジャンルのことでもありますが。

ネットの書評で評判をたしかめたいと思います。

こんにちは。

私が村上春樹を読んだのは『海辺のカフカ』からと遅いのですが、古今東西の作品を乱読した後にも見劣りしない本物さを感じました。
とんでもないキャラを登場させる場合一歩間違えるととんでもない駄作になりかねないものですが、村上春樹はそれをセンスよくユーモア交じりでこなしてしまう技量はすごいと思います。

うえしんさんの仰られている『ノルウェイの森』の主人公の孤独感は私も共感しました。孤独をセンス良く、さらっと書かれていますよね。

たいようさん、こんにちは。

村上春樹はたしかにセンスやユーモアがずば抜けていますね。こういう作家はほかにはいませんね。私は初期のころの乾いた、ブラックなユーモアが好きなのですが、このよさがあまり好きでない人もいるようですね。カート・ヴォネガットのブラック・ユーモアに近いのですが、ヴォネガットよりセンスのいいカッコよさがありますね。

『ノルウェイの森』は恋愛小説だといわれ、死と生がテーマになっているようですが、私は主人公の孤独な生き方のカッコよさにつよく影響をうけたというのはなんとも読み方がズレていますね。でもこういう身の処し方はいろいろ問題をつくったのですが。。

村上春樹はマスコミや世間から距離をおいているのですが、今回のベストセラーがTVにとりあげられたり、独特のメディアのとりあげかたをされますね。小説以外のメディアの露出戦略がいかに作家の価値をおとしめるか達観しているのかもしれませんね。
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世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

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