『これがデフレだ!』 吉野 俊彦


これがデフレだ!―歴史に学ぶ知恵 (日経ビジネス人文庫)
吉野 俊彦

これがデフレだ!―歴史に学ぶ知恵 (日経ビジネス人文庫)

 大恐慌のころの時代がどのようなものなのか知りたいと思っていて、明治のデフレや昭和恐慌のデフレを描いたこの本はぴったりだと思ったのだが、日本銀行をへた著者のこの本はとうぜん金融政策についてが主なので私の期待とすこし違った。

 私は恐慌時代の庶民の生活や労働、企業などがどうなったかという生々しい話が聞きたかったのだが、著者の昭和の銀行取り付け騒ぎをみた経験や永井荷風の日記だけではとても実情がわからない。ただ著者は1915年、大正4年に生まれているから、昭和恐慌の生き証人でもあるわけで実感をもってその時代を読むことができる。デフレの時代推移というのは歴史の教訓としてとても貴重なものだと思う。

 私のもう一つの関心はデフレが雇用削減や非正規増加の犯人になっているのではないかということである。デフレでは値段が下がり、売り上げか減るから生産を減らしたり、コストを減らさなければならない。それがこんにちの非正規増加の圧力になっているのではないかと思うのである。明治や昭和のデフレ下ではどうだったのか、どういう対策や歴史をへてきたのかこの本で学べる。私たちの労働の劣悪化はデフレを正さないと改善されることはないのではないだろうか。

 日本のデフレというのは戦争特需によるいきすぎたインフレや投機過熱を抑制するために政策として断行されたことが多かったようである。デフレというものも恐いものだが、インフレやその反動も長く人々に恐れられてきたのでデフレ政策を断行することが必要で、しかし不況や失業をまねいてしまって、ときの蔵相、浜口雄幸や井上準之助も暗殺されることになる。このような歴史的な時代の推移というのはこの本からひじょうに学べると思う。こんにちの長いデフレは平成バブルの破裂や抑制によるところなのだろうが、卸売物価というのはその以前の1986年から反転に転じていたことがデータで読みとれる。

 デフレというのはたいへんな状況だと思うのだが、消費者としては値段が落ちていいとしても企業は売り上げが減るし収益も上らなくなって人件費を削減したり、雇用を削減しなければならなくなる。モノの値段が落ちるのはいいし、モノにたいしてのカネの価値は上るのだが、企業や労働者は苦境を強いられる。雇用の削減や非正規の増加で消費者にカネが回らなくなり、モノがますます売れなくなり、また失業というようにデフレ・スパイラルに陥る。インフレはモノの値段が上ってたいへんなのだが、デフレでは労働者がクズのように扱われてたいへんだ。デフレをどうにかしなければならないのではないか。

 著者の知り限り世界のデフレで公共事業だけで脱却させた例を知らないという。戦争が活路になってきた事実は否定しようがないといっている。今回のデフレ脱却は戦争によらないで可能か政府の手腕がためされているといっている。戦争並みの莫大な公共事業が必要なら世界で「戦争ごっこ」や「破壊ごっこ」とかの莫大な支出や破壊的ポトラッチをしてデフレを止められないものなのだろうか。日本でも世の中がどうにもならなくなると世直しやお陰参りが流行ったし、経済人類学では奢侈を破壊することで部族同士の経済を回してきたという洞察をもっているのではないか。戦争機能に近い世界規模の公共事業や祭、リセット事業のようなものがおこなわれないものだろうか。

 デフレを止める賢明な政策を考え出してほしいものである。労働者がゴミのように捨てられるデフレ時代の圧力というのをすこしでも早くとりのぞいてほしいものである。


デフレの経済学 バブルの歴史―チューリップ恐慌からインターネット投機へ 昭和金融恐慌史 (講談社学術文庫) 市場社会の思想史―「自由」をどう解釈するか (中公新書) 知られざる真実―勾留地にて―
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