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01 01
2009

知識論

「わからない」私と「説明できる」人たち



 正月からグチみたいなまとまりのない変なエッセイになってしまった。ことしもよろしくお願いします。

 2009年は日本経済や雇用はどうなってゆくのだろうと考えたいのだが、経済について私はわからないことばかりだ。アメリカ金融危機が日本に与えた影響や、雇用はどこまで失われてゆくのか、そういった疑問を知りたいと思うのだが、私の疑問に直接答えてくれる媒体はない。世の中の知識というのは私の疑問に直接答えてくれるかたちで転がっているわけではない。またべつの文脈で知識は説明されているから、私の疑問はいっこうに晴れることがない。

 どうして雇用は賃下げ傾向がつづいているのか、あるいは低価格競争は労賃を下げ続けるが内需の拡大に貢献するしくみはできないものか、といったことを考えたいと思っても、答えはどこにも転がっていない。私は本を探してその答えに近い知識をなんとか探そうとする。日本経済についての本というのはそういう文脈で書かれた本は少なくて、これからどうなるのか、どうすればいいのか、といった本が多いようで、私の疑問を解いてくれない。

 私の知識との関わり方というのは自分の思いついた疑問を解いてゆくという方法をとる。そういう疑問を解いてゆくことに楽しみを見出す。基本的に「世の中はわからないことだらけだ」という姿勢で知識を吸収する。そしてわからないことだらけだという姿勢のまま、いっこうに記憶を蓄積せず、知識を整理せず、世の中はこういうものだ、こうすればいいといった知識が育たないまま、その場所を去ってゆくのである。

 きのうは朝生テレビを見ていた。雇用危機についてがテーマで、非正規労働組合系と、経済アナリスト系と、政治家系という三つの集まりで議論されていた。株主主義が日本の雇用をおかしくしたといった説明がなされていたように思うが、そういう流れを田原総一郎がパネリストから引き出す手腕はなかなかおもしろかった。堀紘一郎や水野和夫などが派遣切りにおちいった経済の流れを説明して、政治はどうするのかといった流れになっていた。雨宮処凛や湯浅誠がそういう流れにおとなしくなっていて、高専のワケのわからない哲学者が流れをブチ壊していた。まあ、4時くらいに寝てしまっていた。

 テレビのコメンテーターというのは、「説明できる人たち」である。「世の中はこうなっていて、こういうことだ」と説明できる人たちである。世の中を「わかっている」人たちである。世の中を「知っている」人たちである。私は世の中をとても説明できないし、世の中はこういうものだという確信をいつももてないでいる。

 それに比べてテレビのコメンテーターは世の中を「わかっている」し、「知っている」のだろう。私はそんな立場はとてもとれないと思うのだが、コメンテーターは世の中を知っており、説明できるというスタンスでないと、テレビ局からお呼びがかかることはないのだろう。

 専門家や学者というのはほんとうに世の中のことを知っているのだろうか。「説明できる」や「わかっている」と胸をはっていえるのだろうか。わからないことや知らないこと、説明できないことはどうやってかわしているのだろうかと思う。私なんてこういう説明でいいのか、こういう説明ですべてを解明できたといえるのかといつも自分に疑問を思うのだが、コメンテーターはもちろんそういうスタンスで説明することはできない。

 この人たちは説明することや教えることをはじめから訓練してきた人なのだろう。わからないことや疑問に思うことをとりあえずは脇において、説明できることに徹してきたのだろう。説明や教えることに頭を整理する方法を学んできて、そういう立場からものをいう。

 専門家や教師というのは世の中を知っている、わかっているというスタンスで説明する。わかっていなければ説明できない。まわりの者たちもそういうわかっているという立場で適切に説明・答えてくれる専門家を期待する。さらには専門家には「どうすればいいか」という答えも期待する。「どうすればいいのか」の答えをもたない専門家は隅に追いやられる。「わかる」と声を大きくする専門家が多くの人の信認を得ることになる。

 ドラッカーはむかし経済学者は「わからない」と答えるのが常だったという。しかし1929年の大恐慌から「私はわかる」というようになったという。「こうすればいい」とか「こうするべきだ」という明確な処方箋を描く経済学者が、大恐慌に苦しむ時代にはとうぜん求められる。そして「こうだ」という世の中を明確に知っていて、「こうすべきだ」という明確な処方箋を描く学者に信認が集まることになる。「私はわからない」といったかつての謙虚な経済学者の時代にもはや戻ることはできない。

 専門家の意見を聞いているとたいていはみんな違うことをいっていて、議論は違う。専門家というのはふつうはみんないっていることがマチマチで、統一見解やたったひとつの正解というものは通常はもたないものである。「みんな私が正しくて、あいつは間違っている」となるのが学者の世界でも、あるいはちまたの意見の集約でもそうなるのがふつうというものである。一枚岩のように統一見解やたったひとつの解しかないと思っている人たちは専門家以外の人たちか、素人だけである。世の中、たくさんの「わかっている」人たちの分だけ、「わかっている」考え方と世界があるだけである。

 まあ、私はわからないという姿勢は大事だと思う。わからないと思うからこそ、疑問や不明なところは追究されて、疑問に付されて、再検討される。わかってしまっていると思い込むと、疑問に付されることはないし、新しい探求がなされなくなる。わからない現実をむりやり理論に押し込めようとすることもおこるだろう。理論という不確かなものに現実をあてはめてゆく転倒もおこるだろう。

 私の場合はわからないというスタンスは保ちながらも、「説明する」「どうすればいいのか」といった頭の整理の方法もとりいれていったほうがいいのだと思う。というか、「説明できる」「わかる」という境地にはなかなか達しえないのだが、「説明できる」という方面への技能も磨きたいなと思う。

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あけましておめでとうございます

朝生、私も見ていました。
この番組では、いつも最後で結論に到達しないのですが、
今回、湯浅氏が終盤で議論を収束させようとしたところ、
横やりがはいって、またうやむやになった感じです。
私も最後まで見られずに寝てしまいましたが。

しかし、もう少しマナーを守って討論してもらいたいものですね。
見ていて疲れるし、うるさい。
こうなると声が大きいヒトが有利ですね。
田原さん、最近、補聴器を付けているようですが、それでも聞き漏らすことがあるようです。
そろそろ、司会を交代した方がいいと思います。

さて、経済予測はできない、というのが解なのでは?
ただ討論番組で「わからない」は禁句で、なんでもいいから言ったもん勝ち状態になっているようですが。

私は経済のことには素人なので、なんのコメントもできませんが、
政治家、経営者、労働者がそれぞれ出来ることから地道にやるしかないのでしょう。

なんだかとりとめのない文章になってしまいました。
今年もよろしくお願いします。


■危機「最も早く脱するのは日本」 麻生首相、年頭の決意-ピザ宅配業界から見た今年の経済動向は?

■危機「最も早く脱するのは日本」 麻生首相、年頭の決意-ピザ宅配業界から見た今年の経済動向は?
明けましておめでとうございます。麻生総理は、日本が一番先に、金融危機から立ち直ると年頭の決意を述べましたが、私もそう思います。私のブログでは現在不況にあえぐ輸出産業とは対極的なピザ宅配業の立場から、日本経済の趨勢を考えてみました。ビザ宅配業は、条件を満たせば今年は伸張することが期待できます。今年以降は、足腰の強いところ、消費者の変化に対応した新業態を開発したところが生き残ると思います。日本経済全体も今年の中ごろまでには回復し内需を中心とした拡大に向かうものと思います。詳細は是非私のブログをご覧になってください。

たまさん、今年もよろしく。

朝生というのは田原聡一郎に話の流れのシナリオがあって、めちゃくちゃな方向に流れがちな話を田原聡一郎がレールの上に乗せてゆくという役割をもっているようですね。

そういう話がめちゃくちゃな方向に行くのを避けながら、レールに戻してゆく田原聡一郎の技術というのはなかなか余人には換えがたいものではないかと思ったりもしますが。私なんか話しているうちにいまなんの話をしているのか?とわからなくなると思いますが(笑)。

こういう議論の場というのは堀紘一郎のように自信がありそうな声とか態度みたいなものが強いですね。自信にみちあふれた態度のプレゼンテーションの競技の場というか。

この討論では従業員は最期まで守るといったむかしの日本的経営はどこにいったのかといった日本の企業の善的なものが郷愁されていましたが、でも守られた雇用も長時間労働や滅私奉公の犠牲も多く払ってきたわけですから、やはりみんながいっていたように流動化にはセーフティーネットがセットで必要だったということに落ち着くことになるのだと思います。ネットと労働市場の充実や、職業教育の必要が強く望まれますね。でもそんなのはいったい何年後にできるのでしょうか。

yutakarlsonさん、おめでとうございます。

アメリカ頼みの輸出外需がクラッシュしてしまったのですが、日本の内需もバイト頼みや低賃金化が進んでいて、とても内需に頼れるという状況ではないと思うのですが、この日本の低賃金化はどうにかならないものですかね。ワーキングプア二千万人で内需の拡大をめざすのはとても難しいと思います。労働者の賃上げや待遇改善が日本のためになるというコンセンサスがほしいところですね。
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