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11 25
2008

集団の序列争いと権力闘争

『マンガでわかる売れる営業マン売れない営業マン』馬渕 哲+南條恵


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マンガでわかる売れる営業マン 売れない営業マン―ちょっと「できないフリ」がお客の心をつかむ (PHP文庫)
馬渕 哲+南條恵

マンガでわかる売れる営業マン 売れない営業マン―ちょっと「できないフリ」がお客の心をつかむ (PHP文庫)


 ぷっとんだ。こんなことをいっていいのか、ここまであからさまにいっていいものか、驚いた。

 この本でいわれていることは「できない営業マンのススメ」である。つまり「劣位」、「劣った人」のススメである。営業マンは「できない」からこそ、客に安心されて仕事を頼まれるというのである。営業マンはできないことによって客に好かれるのが仕事だというのである。

 たしかにふつうの人間関係でも、「できない」「劣った」人に安心したり、親しみを感じたり、つきあいたいと思うものである。しかし「劣位」を戦略にしたり、商売にしたりしていいものだろうかという気もするし、なによりも人が知らず知らずのうちに用いている「劣位の戦略」をこんなにもあからさまに明文化したことに少々のやましさを感じてしまう。劣位であることは意図や工作であることに気づいた瞬間にその純朴さを失ってしまうものである。

 われわれの社会というのは優秀なスキのない人より、できない、劣位の人に気を許したり親近感を抱くものである。それはけっして意図的でも戦略的でもないと思われている。ほんとにバカだとか愚かだとか思われている。だからその人から傷つけられることがない。自分が劣位にならないからだ。社会というのは優位な人より劣位の人によって回っているといったほうがいいだろう。しかしこの劣位さをけっして目標にしたり、戦略にしたりしているわけではない。劣位であることによって人に好かれるという行為は、意図的におこなわれているとはわれわれは思っていない。だから彼は安心して、好かれるのである。これを戦略にしたり、目標にすることは、彼の劣位に裏切られてしまうことになってしまう。

 ニーチェはキリスト教的な道徳、つまり善を志向することは、人間のレベルをひきおろすことだ、畜群になることだと激しく罵ったが、われわれの人間関係において、劣位になることによって人に好かれる、人とうまくやるという行為がごくあたりまえにおこなわれるものである。つまり善人、人から好かれる人になるということは劣位の人間になることなのである。だから超人や優秀な人間を理想としたニーチェははげしく善を呪ったのである。劣位の人間になることを目標にしていいものだろうかという気がする。たしかに人間関係では劣位の人間が好かれ、いい人だ、親しみやすい人だと思われるものである。しかしそれは優秀さや優位の破壊でもあるのである。

 道徳の系譜 (岩波文庫)善悪の彼岸 (岩波文庫)

 人間というものは人とのつきあいのなかでたえず自分が相手より優位か劣位かと測っているものである。勝ち負けの感覚は私たちの根底にあるものである。できる営業マンは優秀であるがゆえに大半ができない客を傷つけてしまって客に好まれないとこの本はいう。対して劣位であるできない営業マンは客に安心感をもたれたり好かれたりするので、仕事を多く頼まれることになるというのである。まったく鋭い、人間関係の妙を鋭くえぐりとった観察なのであるが、しかしこれは言語化・意識化されていいいものだろうかという危惧も感じる。劣位はずぶのままに劣位であるからこそ安心されるのだが、それが戦略や意図になれば、真の劣位さは保ちえないわけだからだ。

 この本は恐れ入った。人間の優位と劣位の断面で、社会や人間関係を切りとる観察というものはそうないものだからだ。私たちは人間関係を生きるうえで賢明に優位と劣位の序列秩序を学び、知らず知らずのうちに優位と劣位のディスプレイをおこなっているものである。しかしそれはほとんど意識化されないというか、無意識におこなってしまうものである。身体は知っているのだが、意識は気づかない、そういった優位と劣位のディスプレイをおこなっているものである。よくこの本はそんな鋭い観察眼でこの真実を切りとったものだと思う。へたしたら、人類学、社会学レベルのかなり卓越した業績ともいえるのではないかと思ったりする。

 このような優位と劣位のディスプレイを深く観察した書物として、デズモンド・モリスの『マン・ウォッチング』という本があった。どのような姿勢が優位のディスプレイになるのかとか、劣位はどのように表されるのか、気に入ったもの同士の姿勢反響など、人間の身体やなわばりが表す記号やメッセージを読みとった稀有の書物であったと思う。これはみなさんに一度は目を通してほしい書物である。人間が動物としてどのようにメッセージを表わしているのか鋭く洞察したのである。

 マンウォッチング〔文庫〕 (小学館文庫)

 この本は優位アクションと劣位アクションという断面で、デズモンド・モリスの観察眼を超えたというか、詳細を極めた本として瞠目の書物であると私には思える。ビジネス・ハゥトゥ書だから私の「GREAT BOOKS」にしようかどうか迷ったが、インパクトと洞察眼は一級のものと見なしていいだろうと思う。

 恐るべし本である。私は自分に問い直したくなった。ふだん私は優位アクションをおこなっているか、それとも劣位アクションをおこなっているか。そして私の人間関係の戦略として、優劣どちらのアクションやかかわりタイプをもっているのだろうか。私はどちらかというと劣位アクションのほうが多い、ふだんひんぱんに失敗や情けないことの表出をおこなってきた気がする。そうすることが無意識に人から好かれたり、安心されたりすることを知っているからだろう。そしてそういう行動枠が自分の「できる人」や「優秀である」という目標を抑え、自分をできない、失敗する人に抑えこんできた気もしないわけではない。交流分析でいうところの「人生脚本」というやつである。

 人に好かれることの劣位性という問題は複雑でなかなか難しいものなのである。人間というものは優位と劣位どちらをめざしたほうが生きやすいのだろうか。ふつう人間は優位をめざせ、権力や地位などの優位性が目標だと思われているが、けっこう劣位を目標にした、劣位であることに快適で人間社会を渡ったりするすべを身につけているものである。劣位の効用や役割も忘れてはならないのである。


著者のかつて読んだ本の書評
マンガでわかる良い店悪い店の法則』 馬渕 哲 南条 恵

マンガでわかる お客様が感動するサービス (日経ビジネス人文庫) ひと晩で儲かるお店に変える接客力! (PHPビジネス選書) マンガでわかる良い店悪い店の法則 (日経ビジネス人文庫) 営業マンこれだけ心得帖 「A4一枚」仕事術
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Comment

本を読まなくてもどういう内容かなんとなくわかりました。
なるほどなぁ~

昨夜捕まえた美女との一夜より、間違えて入ってしまったオカマバーでお尻をなでられた上高額請求で文句を言ったら変なのが出てきて殴られてできたのがこのアザですわ・・・と見せる方が好感度アップというわけですね(笑)

クルックルさん、こんにちは。

こんかいは中身をほとんど紹介できないで、私の考えばかり書いてしまいましたから、優位アクションと劣位アクションの違いや内容を紹介できなくて残念だと思っています。

どんなことが優位アクションなのか、どんな行動が劣位アクションになるのか具体的にわかるとかなり違った見かたができるようになると思います。

しかし人間、劣位をめざしてもいいのだろうかと思わないわけでもありません。劣位はたしかに好かれるのでしょうけど。

優位と劣位の断面で人間関係をながめると、真の関係が見えてきそうに思います。

またまた焼酎麦茶割り中

いろいろありますが、
>営業マンは「できない」からこそ、客に安心されて仕事を頼まれるという
出来ないやつには頼みません。普通は。
>これを戦略にしたり
これは今、芸能界で若干その傾向が見られるようです。(羞恥心とか)
>人間関係では劣位の人間が好かれ、いい人だ、親しみやすい人だと思われるものである
裏を返せば、こいつは自分より劣るという優越感に浸れるということ。
つまり優秀さや優位の破壊ではないと思われます。
>対して劣位であるできない営業マンは客に安心感をもたれたり好かれたりする
稀にあるのかもしれませんが、優秀な営業マンはその場の雰囲気を読み取り、
自然と相手に合わせて営業スタイルを変えます。
>へたしたら、人類学、社会学レベルのかなり卓越した業績ともいえるのではないかと思ったりする
単に地獄のような営業現場の経験が無く、あるいはあったとしても表面的にしか
理解できなかった者のたわごとにしか感じません。
>私はどちらかというと劣位アクションのほうが多い
学校は二流、仕事も二流、でも人生は二流とは言わせない。人生を決めるのは自分です。
例え、世間一般の基準からして最底辺の人生だとしても、そこを生きる自分が
納得できるならば、それは素晴らしい人生だと思います。
東京だけが成功か?誰が故郷を守っていると思っているんだよ。
わたしの言いたいことは以上でっす。

デンカさん、こんにちは。

少し微妙に勘違いされているようですが、まあ私の文章と考えがあまり整理できていなかったのでしょう。

「裏を返せば、こいつは自分より劣るという優越感に浸れるということ。
つまり優秀さや優位の破壊ではないと思われます。 」
この本の全篇に渡って客の優越感をくすぐることによる、劣位の営業マンの優秀さが説かれています。優秀さの破壊うんぬんの文章は文脈が違っていまして、客ではなくて営業マン「自身」の優秀さの破壊ということですね。

「へたしたら、人類学、社会学レベルのかなり卓越した業績ともいえるのではないかと思ったりする―― 単に地獄のような営業現場の経験が無く、あるいはあったとしても表面的にしか理解できなかった者のたわごとにしか感じません。」
私の文章がぼろくそに否定されましたが、これは営業スタイルの文脈でいっているのではなくて、学問の中にこのような優劣順位を観察した洞察はあっただろうかということです。社会学のゴッフマンとかエスノメソドロジーでもこのような優劣を観察した洞察は、私の知見が狭いからでもありますが、聞いていないのですね。

「私はどちらかというと劣位アクションのほうが多い」
これは自分が侮蔑的な劣位にあるという意味でいっているのではなくて、人間関係においてへりくだったり、謙遜したりする儀礼的な意味でつかっているのであって、自我の欠損レベルまでいっていることではありません。

デンカさんは劣位型の営業スタイルには非難轟々のようですが、まあ、私もこのような営業スタイルが有効なのかはよくわかりません。人間の優劣関係を社会学的に捉えたという点で私は瞠目に値すると思っていますが、人間関係においてこういう関係がよいのかも私としては判断しかねます。

文章で伝えるのは難しいです。
わたしもですが、うえしんさんも微妙に誤解しているように思います。
>つまり優秀さや優位の破壊ではないと思われます。
これはわたしの間違いですね。
>表面的にしか理解できなかった者のたわごとにしか感じません。
これは、この本の作者に向けての言葉です。劣位はあるとしてもそのごく一部にしか過ぎないと思うからです。
わたしのように人より劣る人間が出来る営業を目指した場合、かなり論理的な技術を身につけることによってそれが可能ではないかと思っているからです。
例えは非常に悪いですし、あまりに短絡的で誤解を生みそうではありますが、
ある種のサギとかが的を絞りマニュアル化して大量にお金を騙し取ることもできるのが技術の一端、ノウハウの一端だと考えます。
これを書いてもまだわたしは一部誤解しているような発言ですね、多分。
以後、発言には気を付けます。ごめんなさい。

デンカさん、こんにちは。

まあ、劣位型の営業スタイルというのは人のプライドや自尊心を砕くようなところがありますから、人によってはたえられない部分があると思います。

『釣りバカ日誌』のハマちゃんのような職場の潤滑油的な生き方が好きな人もいるでしょうし、優秀さや優位さをめざす人もおおくいるでしょう。

この本はいまアメリカ型のできる営業スタイルが推奨されていて、だから日本的な客に好かれる劣位型営業を見直せという本ですね。営業でもビジネスでもじつはそういうベタな優位-劣位の関係がひじょうに重要な土壌をつくっているのだと指摘した点で、私はこの本の価値を認めたいと思っているわけです。

日本的な人間関係というのはこちらが劣位をとることによって、なごやかになる、うまくいいくといった関係がけっこうあるように思います。謙遜や控えめの美徳というのは日本にまだまだあると思います。この暗黙のルールが日本に突出した人を生み出さない土壌であるのかなと思ったりします。

優位と劣位の戦略というのは、人の根本的な価値観と抵触するものかもしれませんね。それだけ人はその序列にこだわっていることですね。

 日本ではわざと劣位をとってやることがオトナだと思われる風土がありますね。「負けるが勝ち」戦略ですね。勝ち負けにこだわっているようではまだまだ「悟って」いないということですね。

優位だけをめざすと人との潤滑油が失われるとこの本では指摘したいのだと思います。この洞察には優れたところがあると私は思っています。なにより優位-劣位の断面で人間を観察するという視点は動物行動学くららいでしか用いていない視点ですから、おおいに学べるところがあると思っています。
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プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。神秘思想、仏教、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

Kindle本、2冊発売中です。

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