大恐慌が描かれた小説をピックアップしてみる



 世界的株価大崩落によって、世界の経済が壊滅的になっている。とくに銘記しておきたのが、国家破綻がうわさされるアイスランドである。アイスランドは80年代に漁業国から「金融立国」をめざして、GDPが世界トップクラスになり、去年幸福度が第一位にえらばれた国である。

 有頂点から奈落の底につと落とされ、天国と地獄をこんかいの金融危機によって思いっきり味わわされた国だといえるだろう。庶民の生活も車や家のローンがとつじょ、2倍になるといった悲劇に見舞われている。通貨が暴落し、金利の安い円建てでローンを組んでいたからだ。

 「ローン返済、突如倍増 アイスランド、円建て人気裏目」 asahi.com

 通貨が暴落すれば、外国からの輸入に頼っている国は物資不足や物価高騰の悲劇に見舞われるだろう。金融によって有頂天になり、大笑いして繁栄を謳歌していた国が、地の底に打ち付けられるイタさが、こんかいの金融危機の本質を象徴しているように見える。

 ウクライナやハンガリー、パキスタン、ポーランド、韓国なども危機に陥っており、これらの国は通貨暴落によって庶民の生活はがたがたになってしまうだろう。通貨暴落で激しかったのは南アフリカ、トルコ、ブラジル、韓国、オーストラリアなどで、とうぜん輸入品は暴騰してしまい、生活や経済がなりたたなくなってしまうだろう。日本だけはぎゃくに円高になり、輸出産業に頼る株価は暴落するというのはヘンな話で、輸入品が暴騰する国に比べればかなり安心の状況に思えるのだが。

 世界各国に国家破綻をひきおこすほどの金融危機がこの日本に悪影響をおよばさないわけがない。これは世界大恐慌といってしまったほうがいいのだろうか。しかしそれにしても数字のマジック、というか数字の絵空事によってパニックを味わわされているといった感がするのだが。

 これから世の中はどうなってゆくのかと考えれば、1929年の世界大恐慌がおこったあとの世界はどのようなものだったのかと知りたくなる。歴史書では実感をつかみとりにくいものである。経済書も興味深いのだが、庶民の生活実感からはかけ離れたものである。世界大恐慌下の生活を語った本はどんなものがあるのだろうか。小説ならわれわれの実感に身近なものが描かれているはずである。少ないながらも私が知っている大恐慌下の小説をお教えしよう。

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 大恐慌といえば、もちろんジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』があげられるだろう。大恐慌下に農地を追われてカルフォルニアに流浪する農民(オーキー)を描いた作品で、映画にもなり、アメリカ人におおいに受けいれられた本である。銀行資本の問題点が描かれている。私はこの本も、スタインベックもかなり好きである。


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 新潮文庫からも岩波文庫からも絶版になっているようだが、コールドウェルの『タバコ・ロード』も大恐慌下の農民が描かれた作品である。ケモノのような生存欲のみになっている人間が描かれていて、その悲惨さを浮き彫りにしている。

アンジェラの灰 (上) (新潮文庫)アンジェラの灰 (下) (新潮文庫)

 さいきん映画化された『アンジェラの灰』(フランク・マコート)も記憶に新しい方がおられるだろうと思う。大恐慌下のアイルランドの極貧生活が描かれており、子どもはつぎつぎと死んでゆく、酒飲みで失業つづきの父は頼りにならない、母は教会の支援をうけるが物乞いも経験するといった大恐慌下において庶民がどんな生活を送らなければならなかったか、リアルな事実がなまなましく伝わってくる。

くそったれ! 少年時代 (河出文庫)

 ブコウスキーの『くそったれ! 少年時代』は私は未読なのであるが、大恐慌下のロスアンジェルスの下町生活を描いているそうだ。大恐慌はおおくの人たちになまなましい傷をのこしたようである。

蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

 若者の労働状況が似てきたということでベストセラーになった小林多喜二の『蟹工船』だが、これは大恐慌がおこった1929年に出版されている。日本は大恐慌に先立つ1927年に恐慌をおこしており、銀行のとりつけ騒ぎ、3週間のモラトリアム(支払猶予)がおこなわれている。といっても日本は第一次世界大戦が終わったあとに1920年から戦後恐慌をおこしていた。労働争議、ストライキもひんぱんにおこっており、騒然とした世の中であったようだ。いまの中国の工場も出稼ぎ民工が悲惨な目に会っており、おそらくこんな感じに似ているのだろうと思う。

 大恐慌の小説といえば、私はこのくらいしか知らないのだが、おそらくこの時代を背景にした小説は山のようにあるのだろう。ハードボイルドの作品などは勃興期がその時代だから、大恐慌を刻印した作品は多いだろうと思われる。この時代を生きた作家はとうぜん経済不況下の実情をおりこんで作品化していたことだろう。もうすこし情報収集が必要なようである。

シンス・イエスタデイ―1930年代・アメリカ (ちくま文庫)

 1930年代のアメリカを描いたノンフィクションで、時代の貴重な証言になる作品だろう。

 私は村上春樹によって小説をたくさん読むようになった人間であるが、村上春樹はなぜかフィッツジェラルドという20年代のアメリカの繁栄を描いた作品に魅かれていた。おそらく繁栄の空虚さにひきつけられていたのだと思う。そのあとにアメリカに登場したヘミングウェイは奇しくも「失われた世代」とよばれた遅れてやってきた青年たちである。こんにちの就職氷河期世代がこの「ロスト・ジェネレーション」でよばれるようになったのは時代の類似性を感じる者が多かったからだろう。もうあらかじめできあがった世界で生きてゆくしかない、そういった失望感がヘミングウェイの世代をおおっていたのである。

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)日はまた昇る (新潮文庫)ハツカネズミと人間 (新潮文庫)

 私はそのあとのスタインベックに魅かれたのであるが、大恐慌の作家であった。ほかにフォークナーやカポーティといった作家がアメリカにあらわれたのであるが、私は興味が魅かれなかった。崩壊してゆく予兆を感じていたのだろうか。これからは「大恐慌の世代」や「暴落世代」とよばれる時代がやってくるのだろうか。


大恐慌の時代
映像が語る20世紀 Vol.4 ~吹きあれる大恐慌の嵐~大暴落1929 (NIKKEI BP CLASSICS)昭和金融恐慌史 (講談社学術文庫)
大恐慌を見た経済学者11人はどう生きたかバブルの歴史―チューリップ恐慌からインターネット投機へ大恐慌のアメリカ (岩波新書)ウォール街の崩壊―ドキュメント世界恐慌・1929年〈上〉 (講談社学術文庫)
昭和恐慌―日本ファシズム前夜 (岩波現代文書)昭和恐慌史に学ぶ―大不況からなぜ脱出できたか世界大恐慌―1929年に何がおこったか (講談社選書メチエ)

コメント

ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』
恐怖が今でも蘇ります。いつ自分がこういう境遇になるか、
今の日本の状況、自分の状況を考えたら、その壁は極々薄いです。
ちゃんとしたセーフティネットを構築すべきだと思います。
住むところでさえ、保証人や敷金礼金など、かなり敷居が高いです。
住所が無くなれば、まさに『怒りの葡萄』と同じようになってしまいます。
切実に恐怖を感じます。

デンカさん、こんにちは。

大恐慌は恐い、恐いと恐れられて吹聴されていますが、だれがいちばん恐かったのでしょうかね。だれがいちばんツラかったのでしょうかね。

金持ちが莫大な富を失ったとしたら、貧乏人には喜ばしいことですね。貧乏人がもっとヒドイ目に会ったとしたら、笑っていられませんね。

貧乏はぎゃくに人はどんなことをしてでも食っていける、生きていけるという新たな発見をもたらすのではないかと私は思ったりします。貧乏やホームレスは文明人の食わず嫌いで、食べてみたらうまかった!、と思えるかもしれませんね。

恐れる人は他人です。他人だから人一倍恐いのであって、なった本人は生きるために必死だから恐れているヒマもないと思います。むしろ日常的な毎日にむなしさを感じていた人も生きるか死ぬかの瀬戸際で必死に生きようとしたら、かえって張り合いや生き甲斐のようなものを感じられるのかもしれませんね。

そういう生き甲斐のために大恐慌や戦争のような悲惨な目は、人間の社会にサイクルのように回ってくるのかもしれませんね。バタイユとか栗本慎一郎はそういうのを「呪われた部分」だとか「パンツをはいた人間」とか表現しましたが、つくっては壊し、生き甲斐を見つけるのが人間の習性なのかもしれません。

こんにちは。

戦争中は自殺が減るとよくいわれますね。人間追い込まれて必死になるうえで逆境は大切なのでしょうね。最近ホームレスの人達を尊敬する気分になってきています。彼らはなぜあの状況であきらめずいきてていけるのかと。たしか人によってはただ死が怖いだけの人もいると思いますが。
もちろん他人事ではありませんね、今のご時世は。

たいようさん、こんにちは。

自殺は社会の拘束が強いときもおこりやいすし、社会がばらばらなときもおこりやすいと社会学者のデュルケームはいっていました。いまの日本は放ったらかしの寂しい社会なんだと思います。

自殺者の層と、ホームレスの層は重なるのでしょうかね。

ホームレスはたんに家がなくなっただけだともいえますので、かえって身軽さや荷物の重さを感じないですむラクなポジションでもあると思います。文明人はいろいろなものを抱えて、維持するものが多くて、かえって苦しいのだと思います。

大恐慌の時代がくると、いまのニートとか若者はかえっていきいきいとした時代をむかえるのかもしれませんね。社会もうすでに完成していて、若者にとっては「あらかじめ」失われた世代ですからね。若者のやる気のなさは足をひっぱってそういう完成された社会をご破算にして、自分たちのゼロからつくる社会を待望しているのかもしれませんね。

若者は壊れた、終わってしまった時代からリセットして、再出発したいのかもしれませんね。

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