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10 10
2008

旅へ

『古道』 藤森 栄一


古道―古代日本人がたどったかもしかみちをさぐる (講談社学術文庫)
藤森 栄一

古道―古代日本人がたどったかもしかみちをさぐる (講談社学術文庫)


 このところ株価大暴落から目がはなせない。緒方拳の死去、ノーベル賞の日本人受賞など大きなニュースがつづく。なにか書きたいと思うのだが、私の手には負えないことばかりなので残念である。世情とまったく連動しないで、ほかの世界に沈静するのも乙なものである。世情とかかわらないで暮らすというのも、人にとっては幸福や安寧であるための必要な知恵や技能であるかもしれない。

 また読者からそっぽを向かれても(笑)、自分の好きなことを追究するねばり強さは、趣味をきわめる王道なのだろう。すぐに一般受けをねらったり、みんなの流れるほうに流れると、なにごともなしえないのだろう。人の楽しみと、自分の楽しみが重ならなければ、仕方がないというものである。

 この本は日本の道の開拓史をたどった歴史ロマンあふれる好著であると思う。著者の体験や発見がなまなましく描かれていて、考古学のロマンというものがよくあらわれている本だと思う。

 この本の発想の原点というのは、信濃や長野の土地はどのように人が通り、道や土地は開拓されていったのかということである。それを古代のゾウやかもしか、イノシシなどが通った道をたどりながら、人類の道や土地の開拓史までを思い描いてゆくのである。

 人は信濃や長野のような険しい山あいをどのように開拓し、または開けていったのかだろうと思わないだろうか。どのような人が通り、どのようなドラマを生んだのか、夢想したり、知りたいと思ったりしないだろうか。そのようなロマンを考古学の方法で調べていったのがこの壮大な人類史である。

 読み応えもあるし、なかなかすごい本だと思うのだが、信濃や長野あたりのことがよくわかっていない人でないと、深い感慨や理解が得られない考察でもあると思う。土地勘や地理を知らないとそう理解できたり、身近にロマンを感じられない。ある程度は郷土愛的な考察であるので、その土地をよく知らない者はすこし外れた読書になるかもしれない。

 道はいろいろな人が通り、流れてゆく。かつての縄文人やそれ以前の人たちが獲物を追って通った道ができあがり、農耕の地をさがした人たちの道が開け、黒曜石や食糧や行商の道がふみかためられ、宗教の聖地をめぐる旅で通られ、仕事のために遠くに旅立つ人のための通路になったりした。そのような人たちはどのような思いをいだいたり、どのような人生を流れていったのだろう。

 道は多くの人の命が流れる道であり、そして私たちも多くの人が流れる命のうちのひとつである。かつて道を歩いた人たちを思い浮かべるということは、そのような長大な歴史の中に消えていった人たちの哀愁を感じることでもあるのだろう。道に遺跡や遺物を見つけることは、人の命の営みをそこに立ち上がらせることなのである。私たちもそのうちのひとりなのである。


かもしかみち (藤森栄一全集) 蛇―日本の蛇信仰 (講談社学術文庫) 日本の古代道路を探す―律令国家のアウトバーン (平凡社新書) 古代研究〈1〉祭りの発生 (中公クラシックス) 古代出雲 (講談社学術文庫)
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