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09 16
2008

旅へ

『おくのほそ道(全)』 松尾芭蕉


おくのほそ道(全) (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)
角川書店

おくのほそ道(全) (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)


 日本の文学者は旅をどのように描いたのかという興味から読む。日本の代表的な紀行文だというのに、大阪人からすれば、「なんだ、東北・北陸旅行記」かと思ってしまう(笑)。大阪からの旅行で、東北はそう近くないし、あまり興味が向かうものでもないよう気がする。東北・北陸紀行が日本の旅紀行の代表作になるというのは、江戸が過去の日本(西日本)に対する決別をもてはやしたということなのか。『野ざらし紀行』では江戸から大和や芭蕉の出身地・伊賀と回っているけど。

 私は残念ながら俳句を解せない。どこがいいのか、どんなふうにいいのか、なぜこれが佳作なのかよくわからない。味わえればよいのだが、古典伝統と断たれてしまったのが現代だと慰めにする。

 芭蕉の旅の目的は奥州平泉や松島、象潟であったようで、歌枕をめぐる旅だった。かれの旅の感興というのは仙台・多賀城石碑でのつぎのような現代訳語にあらわれている。

「古歌に詠まれた名所(歌枕)は、たくさん語り伝えられているけれども、それらを実際に調べてみると、ほとんどの場合、名所だった山は崩れ、川は流れを変え、道は改まり、石は土中に埋まって隠れ、木は老いて若木と交代している。時代が移り変わって、名所の跡がはっきりしないものばかりなのだ。なのに、この壷の碑は、まさしく千年前の記念碑である。この碑を目の前にして、碑に感動して歌を詠んだ古人の気持ちがよくわかる。これぞ、旅のご利益、長生きのおかげであって、旅の苦労も吹き飛び、感激の涙があふれ落ちそうになった。



 かれは歴史に出会う旅をしたのであり、歴史によって変わったものの中の変わらないものに出会えて感動しているのである。歴史が消してしまう中で、歴史の痕跡を見出すことに感動を感じている。時間がたっても変わらないもの、残るものに、宝物を見つけたように喜んでいるのである。

 「夏草や兵どもが夢の跡」

 有名な句であるが、芭蕉はこの句が詠まれた奥州・平泉の地を最大の目的としていようだ。奥州藤原三代の栄枯盛衰の舞台、義経が散った地である。

「……主君義経を死守したのだが、その武功も一時のこと、今や戦場の跡は草むらと化している。杜甫の詩にある「国は滅んでも山河は昔のまま、城は荒れはてても、春になれば草は緑となる」という句のとおりたど、笠を敷いて腰を下ろし、時のたつのも忘れ、悲劇を回顧しながら涙にくれた」



 芭蕉の旅というのは「歴史紀行」である。旅の目的はたいていはそうなのだが、たんなるレジャーや観光、物見遊山というばあいもある。歴史と切れた現代を見る旅、あるいは自然や「いま」しか見ない旅というのももちろんある。歴史はつまみ程度の添え物ということもありうる。日本の政治的な歴史をめぐる旅であるというのが芭蕉の旅のようである。歴史の悲劇の人物、または衰退のさまに最大の感興を感じているようだ。

 「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」

 この有名な句は、山形県山寺の立石寺で詠まれている。

「登ってみると、そこは、岩また岩が幾重にも重なりあって山をなし、松や檜などの老木が茂りあい、土も石も古色を帯びて苔がなめらかに覆っている。岩上に建てられた十二の御堂は、どれも扉を閉めきって、物音ひとつしない。
岩場のふちを回ったり、岩の上で這ったりして、ようやく本堂を拝むことができた。ひっそりと鎮まりかえった、すばらしい風景のなかで、ひたすら心が澄みゆくのを感じた」



 こういう文章のあとにその句ははさまれている。なるほど背景やそこにいたる道というのも重要な舞台装置なのである。

 日本の古典文学の代表作にこのようなオソマツな文章しか書けないが、まあ、芭蕉の旅とはどのようなものだったのか概要がわかってよしということにしよう。旅にどのようなものが求められたのか、が私のこんかいの読書の目的である。


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