『日本型ヒーローが世界を救う!』 増田 悦佐


日本型ヒーローが世界を救う!
増田 悦佐

日本型ヒーローが世界を救う!


 読後、「う〜んんん」とうなったのだが、ネットで調べてるみると案の定、「トンデモ本大賞2007年」にエントリーしていた(笑)。いちばん最悪なのはアメリカン・コミックが『スーパーマン』のような勧善懲悪型のストーリーしかないと切り捨てて、だから日本のマンガはすばらしいとほめたたえるところだ。前提をろくに調べもしないで当方が優れているといわれても信用されない。

 骨子としては日本は大衆によるミーハー低俗文化が花開き、欧米のように知的エリートが大衆をひっぱるような文化にならず、凡人のための大衆芸術が人類のネオテニー(幼児成熟)のつぎの段階を開き、プラトンの哲人国家が恐れる幼児のような遊戯国家が欧米を打ち倒す、といった内容である。

 知的エリートにより大衆を先導する社会より、凡人によるミーハー低俗文化が大衆にとってはよかったのだという内容はそういう見方もありかなと思ったのだが、アメリカや欧米より優れているという点にアメコミの偏見による独断と、日本のマンガだけが正義や善悪の相対化の視点を手に入れたとか、ネオテニーにその論拠を求めるあたりにトンデモ臭がただよってくる。解釈や判断がいくらでも可能なものに独断や即断が下され、マンガ的発想の跳躍があったりして、なんとなく「……」、「でもなぁ」という不信感がつきまとう本でもあった。でも私はネットでトンデモ大賞本という記事を見るまで気づかなかったのだが、やっぱり書評を書く前には調べられずにはいられない本であった。

 ただし細かい論考やデータをもとにした考察はおもしろいわけではない。著者はニューヨークの大学教授をへた証券アナリストである。それにしてもマンガ的な発想の跳躍や独断は気になるのだが(笑)。こういうマンガ評論というのは実証や確認をおこなわないでもできる自由な評論であるけれども、実証や常識からあまりにもかけ離れた跳躍した発想や独断がときたま飛び出したりして、「?」と首を傾げざるを得ない論考もたしかにあった。そういう実証主義のなさが「トンデモ本」になるのだろう。

 著者はマンガが好きでよく読んでいるのだろうし、マンガ評論もそうとう読んでいる。ただその評論のつなぎ合わせやデータの寄せ集めから、日本のマンガがアメリカン・コミックに勝っている、だからアメリカより日本文明が優れているという物語りに仕上げるさいに、トンデモない独断と偏見と思考の跳躍による物語ができあがったのだと思われる。なんだか鉄骨とゴムでできあがったつきはぎの建造物みたいである。骨子の部分がぐにゃっとなるゴムであった。アメリカに勝ちたいという一心で日本の優越点がゴムの山のようにつみあげられたのだろう。

 細かい論考はそういう見方もありなのかという驚きをもたらすものでもあったが。エリートによる大衆文化ではなく、大衆の大衆のためによる低俗ミーハー文化が優れているのだ、知識人統率社会より優れている、といった内容なのだが、ミーハー大衆文化を肯定する見方もあったのか、でも欧米ってそんなに知的エリートが大衆を先導する社会なのかという前提の疑問も残る。なんだか前提の世界の実証がいっているそばからあいまいにほどけてゆく気がする。。(笑)。

 マンガをほとんど読まなくなった私であるが、文章の中にはさまれたマンガの絵を見ると、鋭い論考が展開されていないのかと期待してしまうのだが、この本はふいに見かけた古本屋でほかの本を清算する前に手にとってしまったのだが、もうすこし内容を検討してみるべきだったのかもしれない。まったくムダだったとは思わないけど。私の好きなマンガ評論がいまだにつぎの二冊であるというのは残念であるというか、まだ優れたマンガ評論はそんなに多くないのだろうか。

私の居場所はどこにあるの? 少女マンガが映す心のかたち (朝日文庫 ふ 26-1)恋愛は少女マンガで教わった (集英社文庫)

高度経済成長は復活できる (文春新書) 日本の数字―データが語るこの国のゆたかさ 国家破綻はありえない 科学技術者のみた日本・経済の夢 日本文明・世界最強の秘密
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