HOME   >>  旅へ  >>  『やった。』 坂本 達
07 29
2008

旅へ

『やった。』 坂本 達


やった。―4年3ヶ月の有給休暇で「自転車世界一周」をした男 (幻冬舎文庫)
坂本 達

やった。―4年3ヶ月の有給休暇で「自転車世界一周」をした男 (幻冬舎文庫)

 おもしろいので一気に読み終えた。とくに人種も民族も違う人たちに食事をもらったり、宿にとめてもらう親切をうけたことなど、思わず涙がにじんでくるほど感動的。アフリカでマラリアと赤痢になり、治療してくれた医師ががんとしてお金をうけとらなかったり、アラスカの酷寒のなかで無料のキャビンが用意されているところなど、見返りを期待しない人間の親切ほど人を感動させるものはない。またどんな国や人種にあってもそういう無料で食事をおごってくれたり、親切に宿を提供してくれるなどのやさしさを受けると、国や人種になんの隔たりもないことを思い知らされる。

 こういう旅はサイクリングの世界一周だからこそ、得られた貴重な体験であると思う。電車やタクシー、ホテルなどに泊まっていると、こういう体験にも出会わないだろう。クルマに乗れと誘われたり、ウチに泊まってけといわれたり、チャイをすすめられたり、食事をすすめられたりと、世界各国で人の親切ややさしさに出会っている。このような見返りのない親切というものは、都会の中で暮らしているといっさい出会わなかったり、通り過ぎたりするものだから、この著者は世界中で貴重なすばらしい体験をしてきたのだと思う。都会の寒々しい関係しか知らない人は、この旅のやさしさや親切を一度読んでみたほうがいいかもしれない。

 同じようなユーラシア大陸ヒッチハイク横断をした猿岩石が香港を出発したのは96年4月。著者はイギリスを95年9月に旅立っているから、猿岩石より早い。「電波少年猿岩石1」YouTube。猿岩石はこのような親切を受けなかったように思う、というか、自虐的なハプニングがウリだったから、そのような親切は印象が薄くなっただけかもしれない。

 旅行の中でとくに印象深かったふたつの経験を引用したい。見返りのない親切が感極まる。

昼時になると、高床式住居の下の日陰から、「キンカオ!(ご飯食べな!)」と声がかかるので、寄らせてもらう。
とくに田舎は質素な生活をしていて、みんなほとんど靴を履いておらず、ごく限られた身の回りの品だけで、つまくし暮らしている。日本にくらべれば、足りないものばかりなのに、ラオスの人たちはなんでも人にあげたがり、心が満たされているんだと思った。近代的な発展だけが幸せでないことを、痛感させられる。



「ナダヒニ・リゾート」。これはサイクリスト、スキーヤー、そしてハイカーに無料で利用してもらおうと、ある善意の人が建て、メンテナンスまでしている小屋だ。
この厳しい寒さと、向こう何十キロと何もない吹きっさらしの土地に、まさに天国を見つけた思いだった。
「ここにたどり着けたことが、どれだけ幸せだったか! このキャビンは、人間を幸せにするために、いかに少ない物でこと足りるか、ということを教えてくれた」



 自転車旅行というのはそうとうの体力やタフさがいる。いまは距離のある移動だと電車やバス、クルマに乗るのが当たり前である。あえて自転車という自分の体力だけが頼りの旅に出ると、寒さや熱さ、疲労をもろに受けて、見えるもの、体験すること、そのどれもが違ってくるのだろう。電車やクルマはとちゅうのこのような情景や経験をすべてぶっ飛ばしてしまう。それらで出会えるのは商業化された、ビジネスの人たちだけである。自転車旅行は生活や暮らしを体験できる移動手段なのかもしれない。

 なお著者はミキハウスの有給休暇を利用して4年3ヶ月の世界一周の旅に出ている。会社の業務に関係あるのか、企業にこんな要求をしていいものかすこし心配になったが、ミキハウスはこれで宣伝になるのだろうか。著者はいま人事部に属して、講演やギニアの井戸掘りプロジェクトをおこなったりしている。自分探しの若者の中にはボランティア的自己実現をめざす人がけっこういるが、そういう方向にいこうとしているのだろうか。


著者のサイト
 TATSU SAKAMOTO'S BIKE TRIP AROUND THE WORLD



ほった。―4年3カ月も有給休暇をもらって自転車で世界一周し、今度はアフリカにみんなで井戸を掘っちゃった男 行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅 (幻冬舎文庫 (い-30-1)) 流学日記―20の国を流れたハタチの学生 (幻冬舎文庫) いちばん危険なトイレといちばんの星空―世界9万5000km自転車ひとり旅〈2〉 (世界9万5000km自転車ひとり旅 (2)) 洗面器でヤギごはん 世界9万5000km 自転車ひとり旅III
by G-Tools

関連記事
Comment

焼酎麦茶割り中

うえしんさん、
いくら本読んでも、何にもわかっちゃいないよ。
兎に角、旅に出て、自ら経験しないと何にもわからないよ。
もう自由なんでしょ?
とりあえず、北を目指せ!

デンカさん、じれったくてすいません(笑)。

いま、足止めを喰らってまして、というのは二輪の教習に通ってまして、あと卒業学科試験、技能卒検、それにバイク選びと、まだもう少し旅立てないんですね。

気分だけは旅へと味わえるように読書をしております。
私は読書好きですから、読書だけで楽しめる傾向もありますが。

もちろんそのような準備が整えば、旅立てさせていただきたいと思っております。
はやく各地の風景をながめて、きれいな景色でキャンプをしたいと思っておりますが、なにぶん免許をとらないことには動けません。

なにより学科試験が難しすぎます(泣)。覚えられません。
旅立てれば、ツーリングの風景をご報告できると思います。
しばし読書の旅を楽しむしかないと思っております。

>このキャビンは、人間を幸せにするために、いかに少ない物で
>こと足りるか、ということを教えてくれた

私が10代の頃に読んだ、『パパラギ』にも通じますが、
発展途上には近代社会にはない、至極シンプルで
揺るぎない幸せがあるような気がしてなりません。
このような体験記を読むと、自分たちの方が、実は惨めで
貧しく不幸なのか、と悲観したくなりますが、
豊かな文明の利器や便利さにどっぷりつかり、
それらがないと生きていけないのも事実。
(生きていけないという思い込みが問題?)

幸せのかたちは、それぞれ。
どんな場所にも(人にも)光と陰、両方あるし、
いいとこどりはありえないから、日常をワクワクできるような、
インナートリップの方法を見つけるしかないかな。
うえしんさんは、読書→免許取得後ツーリングの風景、ですね。
私は愛犬とドライブです。

話は飛びますが、
私の派遣先でも最近、海外青年協力隊から戻ってきた人がいます。
アフリカで2年、井戸を掘ったり、教師などのボランティア活動をしていたそうです。
憧れの眼差しを込めて、話しかけてみたのですが、「どこが?」と言うほど
協調性も他人に対する気遣いも感じられない人でした。
(そんなにたくさん話せなかったのですが)
日本人の職場の仲間には、どう思われてもいいような感じです。
ある意味タフです。
アフリカに井戸を掘るというのは小さい頃からの夢だったそうですが、
ボランティアをする人=他人に優しい人というのは違うものなのですね。
優しさも、アフリカが基準なのでしょうか...
って、うえしんさんに聞いてもしょうがないですね。

石蕗さん、こんにちは。

この本はよかったですよ。
とくにアフリカや中近東の人種や種族が違うような人が、気軽にメシを食え、お茶を飲め、泊まっていけと親切に声をかけてくるさまは感動的ですね。

見返りのない親切ほど人を感動させるものはないですね。
こういう恩恵をうけた人はほかの人たちにそのような親切をほどこすべきだし、また人に裏切られたとしても、人に対するゆるぎない信頼感をもちつづけることができるのでしょうね。

人は人に対してこのような見返りのない親切を与えることがいちばん崇高なことなのかなと思ったりします。今日の貨幣化され商業化された日本では味わえなくなった親切だと思いますが。豊かになったのに人に無償の親切を与えることがなくなってしまったというのは、なんとも貧困なことであると思います。

海外青年協力隊にいく人はかならずしも「善人」とはいえないのでしょうね。
ボランティアにいくような人たちというのは、私もどういう人たちなのかよくわかりませんが、親切や善行としておこなうのではなく、ほかの目的、たとえば日常の不満とか欠如感とかで行く人もいるのでしょうし、優越願望や認知願望が強い人が行ったりするのかもしれませんね。

かならずしも「善人」とは限らないかもしれませんね。たとえばクリスチャンのシスターなんかであったら、どんな人にもやさしい、思いやりをもった態度をとれるかもしれませんが、海外青年協力隊はそのような宗教的態度や戒律をもっているわけてばありませんね。どちらかといえば、「野望」の大きい人たちがいっているのかもしれません。

私はボランティアの人たちが「善人」であるという見解はもっていませんし、どういう類型にあてはめたらいいんだろうと時に思ったりします。善なのか、野望なのか、優劣序列を味わいたいだけなのか。ニーチェの『道徳の系譜』とか『善悪の彼岸』なんかを再読して考えてみましょうか。(笑)。

発展途上の人たちの見返りのない「親切」
先進国のボランティアする人の「善行」
同じ親切でも、心の出所は違うのでしょうね。
行為の規模は小さくても、受けた方はものすごく感動する。
沖縄を旅したとき、知らないおばさんが蚊にさされた私の足に、
軟膏を塗ってくれたのですが(バス亭で)言い得ぬ優しさが
滲んできて泣きそうでやばかったです。
沖縄にもそういう「親切」の類が多々ありました。

私が会社の人に感じた違和感は、ボランティアする人を
無意識に崇めてしまうような自分の単純さのせいですね。
正しいとされる行いでも、それをどんな気持ちでするか、
してるのか...

うえしんさんに聞いて、やっぱり目から鱗でした。

石蕗さん、こんにちは。

まあ、ボランティアを純粋に尊敬できる気持ちをもてたほうがいいと思いますが。

でも善行というのは難しいものですね。
利他行為と思っているものでも、利己的な動機がまぎれこんでいたりしたら、それならそんな偽善はやらないほうがいいじゃないかと判断保留しているのがいまの私であると思います。

とくに開発国や発展途上国のボランティアというのはかなり難しい問題をはらんでいると思いますよ。

歴史的に西洋や日本の植民地主義というのは、「進んだ国」が「劣った国」を導いてやるという序列意識や優越意識になってしまいましたし、そこから貧困や悲惨から救い出してやるという正義の思想は、侵略や併合の行為を正当化することになりました。これは国と国との関係でもそうですし、ふだんの人間関係にもあてはまるものだと思います。

正義や善というのは一方的なものになり勝ちなもの、一歩間違えば、他国の支配や統制を正当化する行為を導いてしまうという恐ろしい一面もありますから、正義や善というのは無邪気に礼賛するのはとどまったほうがいいと思います。

ただ、私はボランティアや正義、善の良い面はかんたんに捨てるべきではないと思います。人のためによいことをしたり、助けることは、人として行うべき大切なことだと思います。このような悪い面も警戒しながら、よい行いを慎重に行うべきなんだと思います。

ボランティア・ナルシズム

うえしんさん、お久しぶり。ZARDの項でメールをやりとりした者です。
覚えていますか?ブログ見てたら、あなたのポートレートがあったので、思わずニヤニヤしてしまった。なぜかっていうと、私が想像してたビジュアルに、ドンピシャリだったからです。いいんじゃないですか、いかにも線の細い知的なややアタマでっかちな文学青年って感じで。こういう人は、昔はたくさんいたもんなんですがね。最近は、絶滅危惧種じゃないかしら。気味の悪い理数系のIT坊やばっかりが幅を利かせていて・・・

ところで、日本のボランティアって、結局のところ、自分を他人に認めさせたいナルシストの集団。それが被災地へ勝手におしかけて、現地でもありがた迷惑じゃないのかしら。中東あたりをほっつき歩いて、自分じゃ善行だと思っているナルちゃんたちが、そんな甘ちゃんなんぞ通用しない非情な現実に巻き込まれ、最後に日本政府に尻拭かせるってのは、報道で見ていても胸糞悪くなる。日本人って、世界でも最も優秀な民族だが、同時に最もひ弱な民族でもありますね。続きはまた、お話しましょう。






FREEHANDSさん、こんにちは。

ZARDの記事へのコメントはおこなわないようにしていますので、ご了承ください。

私の顔のタイプっていうのは容易に想像できるものなんでしょうかね(笑)。
顔写真は、文章に対する責任というか、顔を見れば、どういう性格の人がものをいっているのかわかりやすいということで、載せています。

文学青年や哲学青年というのはたしかに絶滅危惧種ですね(笑)。
ただ表舞台にひっぱりだこの時代は終わっても、いつの時代もこの世界や社会について思索や考察を重ねたい人というのは一定数いるものだと思います。

この世界のことをろくに理解できないで、この生を終わりたくないという気持ちが、探求に駆り立てるものだと思っています。

ボランティアの評価はむずかしいところだと思いますが、私としては白黒どちらかというような判断は避けたいと思っています。

ナルシストや一方的な善行の押しつけという面は否定できないと思いますが、人を助けたり、人に思いやりをもっておこなうという、人間としてのよい面もふくまれていると思いますので、どちらか一方だけの見解には偏りたくないと思っています。

判断留保したいのですが、心情的には信頼できないという面のほうが正直な気持ちといったところでしょうか。それにしてもボランティアには人としてのよいおこないの面もふくまれていると思いますから、そのような行為をしたくないというのは、残念なことだと思います。善やよいおこないをしているという認知欲や承認欲の過剰な露出が、かれらのイヤな面を増大させているのかもしれませんね。


Trackback
title>
Trackback URL
Comment form









管理者にだけ表示を許可する






google adsense
全ての記事を表示する
ブックガイド特集
月別アーカイヴ
プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

twitterはこちら→ueshinzz

FC2カウンター

Page Top