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07 20
2008

書評 ビジネス書

『会社が放り出したい人 1億積んでもほしい人』 堀 紘一



会社が放り出したい人 1億積んでもほしい人 (PHP文庫)
堀 紘一

会社が放り出したい人 1億積んでもほしい人 (PHP文庫)


 むかし私もビジネス書をよく読んだ。いまの経済はなぜこうなっているのか、どうしてこうなったのか、と歴史的なものを学びたかった。だけど商売や業績、出世に興味のないヘンな読み方であるが。堺屋太一、ドラッカー、日下公人、大前研一、江坂彰、などを読んだ。げんざいの経済の起源や原因を教えてくれるような堺屋太一やドラッカー、大胆な発想をする日下公人、などが好きであった。

 堀紘一もそのような本として読んだ。TVでもよく見かけ、押しのある自信のありそうな声が印象に残っている。かねがね経済やビジネスの変化をつたえるビジネス書は読みたいと思ってきたのだけど、薄っぺらい本でも千五百円もしたりして、買うのを控える機会が多かった。

 まあ、この本は会社人間的発想で生きていれば、二十年三十年後に悲惨な目に会うというビジネスの変化を謳った本である。でもそういう会社人間的、社内力学的なものは、片足はつっこんでないとこれもまた問題だと思うのだが。世の中変わらずにそういう力学で動いてゆくのもまた事実だろう。

 堀紘一は45年生まれで、たぶんに団塊世代的な環境や世代を生きているからだろうから、のちの世代がぴったりと参考になる環境や考え方を学べるかは怪しんだほうがいいかもしれない。人間というのはどうしても世代や環境の枠内でしか見えないほうが多いだろうし、自分の職業やまわりの環境で世界を普遍化してしまう傾向もあると思う。経済・社会全体を語っているように見せかけて、自分の業界や半径10mのことじゃないかとツッコミを入れたくなることもあるのだが、そこらへんはよくかみ分けて読むことが必要なんだろう。たとえば就職氷河世代はまた違った時代を生きていることも理解しておくべきなんだろう。

IBMの取締役は、社長たった一人に嫌われるだけで、これまで何十年もかけて築いてきた地位や名誉も一瞬にして失ってしまうことになる。
「オレなんか、年間に千台も自動車を売っているんだから、誰か一人の客に嫌われたって、売上が一台減って九百九十九台になるだけだ」
自分の生殺与奪権を握っている上司に見放されたら終わりというのでは、あまりに情けない生き方だと思うのである。



 これはこの社会の基本だろう。世間では中古車の販売店より、デカイ会社の社長のほうが偉いとされているが、根本の強さでは、社長や部長の地位は風前の灯の前に立たされている。社会主義か市場主義のどちらがいいかということもこの言葉は語っていて、社会主義もトップのサジ加減ひとつや機嫌でどうにでもなるものであり(ほんとうに殺された)、市場でのプレーヤーは民主的な強さや多様性の強さをもっているといえるだろう。社内の政治力学もあいかわらず大事だと思うが、市場での強さも考えなければならないということである。

 会社が放り出したい有害な社員は、仕事ができるかできないかではなくて、こういわれている。「欲のない」人である。

①マイナス思考の人
②デマを飛ばす人
③ヤル気のない人



 いっぽう、一億円プレーヤーの基本条件はこうである。

《大前提》何か一芸に秀でている。
《基本条件》強烈な目的意識を持っている、常に自分原因論で生きている、絶対に諦めない、表現力が身についている、信用がある、真の仲間がいる



 私などは企業活動にやる気を見出せないし、一億円プレーヤーなんかめざしたくなくもないし、会社が放り出したくなる「欲のない人」なのであるが、だからこそなにが会社で評価されるのかも悟っておく必要がある。擬態は必要である。それにしてもこういう、人を善と悪に切り分ける二分法って、けっきょくは人の悪口に近いものにたどりついて、好き嫌いに帰着するという、自分の性格に合うものを語っているに過ぎないと思うこともある。他人の評価って究極的には、いっている本人の性格の適合性しか語っていないんじゃないかと見なしておいたほうがいいんじゃないかと思う。どんな理論で武装されていようと。


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つまり…

堀さんが挙げている人(社員)、
①マイナス思考の人
②デマをとばす人
③やる気のない人
というのは、「強力な労働組合に入って、守られて楽に仕事をしている人」
をさしているのではないでしょうか?

私のような小さな会社の社員(だった)では考えられないことも、大手企業(例えばJR)の社員ではまかり通ることがありますからね。
「労働貴族」という言葉もありますよね。
堀さんは婉曲に経営にまで口を出す組合の社員の事を指している、という可能性もあります。

しかし、労働基準法はすごいですね。アルバイトでも半年以上勤務したら、有給休暇がもらえるっていうのですから。私、3度ほど正社員になりましたけど、有給休暇はもらえなかったですね(笑)。

なんでこんなに現実から乖離した法律が存在するのか(笑)。

黒田様、こんにちは。

なるほど、会社のいらない人は労働組合に守られた社員と読みますか。
そうだとしたら、極端なことをいうと、堀紘一が必要なのは非正規雇用だけとなるかもしれないですね(笑)。やる気とかプラス志向といった抽象的なものは「演技」だけと思うのですけど、「演技」がうまい人が「勝ち」になるんでしょうかね。

労働基準法は有名無実ですね。仕事の実体が主で、労働時間や残業時間が守られるなんて聞いたこともありません。法律や政府は福祉的な面で国民の味方をしたり、意見を集約したりするのでしょうけど、その約束が労使間に届くことはありません。政府も労働組合も労働者を守らないとなったらだれが守るというのでしょうか。市場主義者がいうように転職や労働市場の多さが守ってくれるのでしょうか。いまは終身的社員のほうが待遇やウマみがありすぎるから、転職市場がなかなか育たないということですね。そして自由もありませんが。

アルバイトに有給休暇があるといっても、バイトは時間給で月給保障制なんかないと思いますから、休んだらそのまま時給がなくなると思うのですが、この有給ってなんの意味があるんでしょうかね。私の前の会社は日給月給でしたから、有給があっても、皆勤が飛ぶか飛ばないかの違いでしかありませんでしたが。

堀紘一の本でいったいたことはこれからは起業家のようにならなければならないということだったと思うんですが、われわれは学校で人から指示されて仕事をするような工業時代のサラリーマン的発想で育てられてきたと思うんですね。起業家の精神というのは、自営業や起業家の親の元で育たないと育まれないんじゃないかと思ったりしますが、そういう精神を自分で養ってゆく必要があるのかもしれませんね。

「過激な組合」

ちょっと言葉が足りませんでした。お許しください。私だって、もし民間で正社員で雇ってもらえて、ヒラからスタートするならば、管理職になるまで、労働者の権利を守ってくれる労働組合に加入すると思います。
ところが日本では、「強力な労働組合」=「思想的に過激な労働組合」であることが今まで多かったのですね。
アメリカの労働組合では、労働者の権利を守るが、枠組みは資本主義から飛び出したりしない、というスタンスです。
日本の「思想的に過激な労働組合」は資本主義の枠から飛び出して共○主義社会を目指す、というものですから、何でもアリなわけです。
共○主義革命を起こす為だったら、嘘をついても、デマを流布させてもいい、それどころか、革命のためだったら、人の命を奪ってもいい、多少の犠牲はやむおえない、という考え方です。加入した労働者の権利を守るのは共○主義革命を起こす為の第一歩、なわけです。これを堀さんは批判しているのでしょう。

で、思想的に左な労働組合はヒラ社員を保護していて、なぜかさらに公務員の労働組合まで作っている。で、正社員の保護を前提にしているから、
派遣社員の労働環境を是正して行く、という行動が取れなかったのです。
正社員の権利を守る事は派遣社員の権利を守る事とぶつかり合う危険があったから、つい最近まで誰も派遣社員の権利を守ろうと言わなかった。

正社員の女性が産休に入る、その間の穴埋めは派遣社員の女性。で正社員の女性が職場復帰したらその派遣社員はどうなるのか、という問題です。

このような派遣社員の弱い立場の問題は本来10年くらい前にきちんと法律で整備するべきでした。悲しいことに正社員の方にも「派遣社員」と一緒にしないでくれ、という意識があった事は否めません。

経営者から見れば、「オレは銀行からお金を借りる際、個人の財産を抵当に入れているし、死ねば生命保険で払え、とばかりに生命保険にも銀行から言われて入らされた。毎日が真剣勝負だ。そのオレから見れば正社員も派遣社員も瑣末な話だな」で終わってしまうでしょう。

これからは派遣社員も多くなりますので、派遣社員にある程度の収入や権利を認めないとダメでしょうね。

自分は正社員で手取り13万円で働いていた(休日は週1)のですが、
派遣の人にも事務職で、手取り18万円で週休2日くらいの待遇は何とかしたい、という気持ちはありますね。何かあると真っ先にクビになるのが派遣社員ですからね。立場が不安定ならせめてそれなりのお給料を、とは私も思います。

黒田              謹言

黒田様、こんにちは。

労働組合については私はかなり不勉強でして、日本の労働組合がなんらかの役にたったのかという疑問はもっておりまして、労働組合を学ぶ価値があるのかと思っているくらいです。共産主義系の人たちがかなり参入したのでしょうか。たしかに70年代くらいまでかなり過激な思想運動がさかんなころがありましたが、それ以降はすっかり骨抜きにされたように思われます。

日本の正社員が解雇規制で守られてきたのは労働組合のおかげであるよりか、戦後の高度成長の売り手市場による正社員層の既得権益のおかげかなとも思ったりします。この人たちが企業内で力をもち、社会保障や退職金をもらうためにそうかんたんに解雇できないような規制や暗黙の了解をつくっていったのではないかと推測します。解雇することが社会的バッシングをうけたり、裁判所の判例で違憲とされたりといった雰囲気が、昭和の終わりごろに根強くありましたね。

このような解雇規制の犠牲になったのが、フリーターや派遣などの非正規雇用ですね。守られる権利のある労働者というカテゴリーすら漏れてしまった人たちを大量に許してきたわけですね。

正社員の既得権益を守るために就職氷河期世代が犠牲になったというコンセンサスが得られてきたようですが、守られた正社員の規制緩和は既得権益層であるからこそ、なおさらできませんね。そこで雇用の二枚舌、ダブルスタンダードが、この日本でまかり通ってきたわけですね。

解決の道筋はあるのか。というか、これは経団連の青写真によってすすめられてきた雇用の長期プランでありますから、犠牲になる者は犠牲になりつづけるんでしょう。政治もうやむやなままでしょう。一体感のあった日本国民はどんどん分裂してゆくことでしょう。昭和の時代の社会形態はどこかの時点でカタストロフィー(破滅的状況)をいつか迎えることになりそうです。
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うえしん

Author:うえしん
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