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07 15
2008

旅へ

『ASIAN JAPANESE〈2〉』 小林 紀晴



ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ〈2〉 (新潮文庫)
小林 紀晴

ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ〈2〉 (新潮文庫)


 「いい大学へ入っていい会社に入って」といった人生観やサラリーマン人生にたまらない閉塞感を感じはじめていた90年代、若者たちはアジアやヨーロッパにほかの人生を探しにいった。はるか昔にはモラトリアムやアパシーとよばれた若者の閉塞感は、00年代にひきこもりやニートとなり、若者の高失業率や非正規雇用と加速し、閉塞感の深刻度はいっこうに解消されないように見える。

 著者の小林紀晴は68年生まれのだいたいバブル入社世代である。サラリーマン社会の閉塞感から脱出し、ほかの人生を探るアジアの旅に三年の新聞社勤務の後に出た。自分と同じように何者かになろうとする「途中の人たち」をアジアに探しにいったのである。

 この巻ではヴェトナムとパリのアジアン・ジャパニーズが取材されている。ヴェトナムとパリの対比といえば、もちろん先進国と発展途上国の位階秩序である。ヴェトナムが混濁した若いパワーをもつ国だとすれば、パリは熟成した成長を通り越した国になるのだろう。熱い国と寒い国、または赤い焼けた土と、石の街という対比がいえるだろう。あるいは汗をかいて走っている姿と、体温を失ってしまったように映る街とも表現されている。小林自身はトレッキングシューズと底の厚い靴という対比や、汚れたザックと金属のスーツケースという違いをそれぞれの国に感じている。

 日本が凝り固まった石の街、システマティックな経済マシーンと化してしまったとするのなら、パリはその先にある街であり、ヴェトナムはまだここにこない熱い国になるだろう。青年期と老年期のようなものである。そしてわざわざ日本の国を飛び出した若者たちはそれぞれの発展段階になにを見て、なにを託してきたのだろうか。日本の閉塞状況の突破口のヒントは老年期と青年期の国に見つけられるのだろうか。

 書店の文庫本の棚をみると、アジア旅行記の本が何冊も見つかる。若者たちの視線は熱いアジアに向かっているのである。それはシステマティックなこり固まった社会になってしまった日本の、失われてしまったパワーやハングリーさ、活力や生といったものをとりもどすための旅に思える。高度成長を担う前のハングリーさやパワフルさを味わいたいがために、アジアに向かっているように思える。昭和30年代ブームの背景にも同じ志向が流れているのだろう。

 新聞やマスコミの目がいつもヨーロッパやアメリカの先進国に向かっていたとすれば、若者たちは東南アジアの後進国や発展途上国に向かっていたのである。小林紀晴のこの本はその流れの先陣をつけた。若者たちは死んで固まった日本ではなく、若者がそうであるように東南アジアのパワフルさやエネルギーに同調していったのであろう。

 東南アジアのエネルギーの源を探索する旅だったのかもしれない。日本はなぜ閉塞し、冷え込み、死んでしまったのだろうか――東南アジアの旅にはそのような問いがこめられている気がする。高度成長を沸騰させたエネルギーや活力の源はなんなのか、日本にそのような磁力をとりもどせないのか――アジアの旅にはそのような問いが潜んでいるように思える。エネルギーやパワーへの巡礼の旅といっていいかもしれない。

 死んでしまった国を蘇らせる――若者の東南アジアの旅にはそのような動機があるように思える。われわれの国はなぜ死んでしまったのか。国家や社会の若返り、あるいは成熟の継続はどのようにしたら得ることができるのだろうか。アジアや昭和30年代への熱い視線はその答えが得られるまでつづくのかもしれない。「ジャパン・デス」からの再生が求められているということである。


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