TV版『ホームレス中学生』の撮影場所と社会的孤立状況



 みなさん、日曜日のTVで『ホームレス中学生』を見ましたか。ホームレス体験であるよりか、母への思慕が、ホームレスの境遇にめげず、兄弟でがんばることの誓いを生んでいて感動的だったのだが、私は大阪の地元民として撮影場所についてもの申したい。ローカル・ネタです。

 ホームレス中学生

 じっさいの田村裕が住んだのは大阪府の北部、吹田市で、あの「まきふん公園」は山田西第二公園であるそうだが、TVを見ているとなぜか大阪市のやや南、新世界や住吉大社を空腹を抱えて歩いているではないか。おや、と思った。どうして吹田市の人間が大阪の南のほうまで歩いてくるのか。そうとうの距離である。住吉に住む私としては違和感を感じた。

 私の憶測としては、大阪をイメージする風景として「チンチン電車」がある場所として、住吉大社あたりの場所が選ばれたのではないかと見る。道路をクルマといっしょに走るチンチン電車はもうそんなにない。そういう「大阪らしい」場所として、住吉大社あたりが選ばれたのではないかと思う。池乃めだかがハトにあげるパンの耳を田村に食べられてぶっ倒れたシーンが住吉大社である。住吉大社あたりは大阪の庶民の人情味のある町として選ばれているのである。

 住吉に住む私としては、吹田市は大阪市の郊外といった感じで、千里ニュータウンや万博公園が近くにあり、大阪は北高南低だから、わりあいに進んだ町だと認識している。もう郊外型の町になっていて、大阪っぽい、庶民的でも、人情味あふれる町でもないかもしれない。

 Snap_0016_convert_20080714195244.jpg


 この写真はドラマのワンシーンだが、大和川の中央をチンチン電車が走っていて、まさに私の家の近く、よく私は自転車で散歩したり、ぼーっと大和川をながめていたりした場所である。それともう一件、はっきりは確認できなかったが、どうも我孫子道あたりの見覚えのある風景が撮られていた気がする。これらのシーンは田村が友だちの母親や近所の人たちに助けられて兄弟とアパートに住むあたりに撮られていて、この住吉界隈は大阪の人情味あふれる町としてイメージされているのだろうか。もし吹田の友だち関係に紹介されたとしても、大阪市の南、住吉まで越してくるだろうか。

 この住吉に20年住み、大学を出てからひとり暮らしをはじめて近所づきあいをまったくしてこなかった私としては、この界隈にそんな人情味あふれる町が残っているかどうかは知らない。じっさいに田村兄弟が住んだのか、それともイメージとしての大阪として選ばれたのかはわからないが、ここらへんは大阪の町をイメージする場所としてふさわしいのだろうか。たしかにチンチン電車や昔なつかし庶民の商店街が少しばかり並んでいる。ここは大阪の庶民的な顔としてふさわしい町なんだろうか。

 とつぜん話が飛ぶが、つぎのデータを見ていただきたい。

 図録▽社会的孤立の状況(OECD諸国の比較)

 日本では人とほとんど付き合わない率が15%にも達していて、ダントツである。アメリカが3%、イギリスが5%、フランスでは8%である。日本はまれに見る社会的孤立度の高い国といえる。理由としては伝統的な絆が失われたことと、経済的サービスが発展したことの二つが考えられるとされている。

 私は後者の社交がなくても経済的サービスで満たされるという理由を選びたい。仕事とお金さえあれば、わずらわしい付き合いをしなくても生活はできるのである。日本はそういう方向でスーパーやコンビニや便利な暮らしを選択してきて、そして社会的孤立の深い国になったのだと思う。私もこういう経済サービスで満たされていて、人づき合いのない世界のほうが心地いいと感じる。

 しかしそのような快適な社会というのは、一歩仕事と金がなくなれば、壮絶な「無縁社会」と転げ落ちるものなのである。日本社会のホームレスの増加はこの社会的孤立と無縁社会にその理由を求められると思う。金がなくなれば、いっさいの経済サービス圏から放り出され、地縁や共同体からも省みられず、路上や公園で暮らさざるをえないのである。日本の快適さである強さは、一歩踏み間違えば、とてつもない奈落の底を用意しているのである。『ホームレス中学生』の家族はそのミゾに落ち込んでしまったのだろう。そしてベストセラーの要因は、われわれの社会の不安もあぶり出しているのだと思う。

 快適であるけれども、一歩道を間違えば、だれも助けてくれない社会になったのである。快適な経済サービス圏はお金がなければ、たちまち弾き出されてしまう。それは経済マシーン化してしまった、人間の助け合いや情緒を失った社会だといえるだろう。われわれがホームレスや困った人に手をさしのべられないのは、このような経済マシーンの社会を選択し、信仰してしまっているからなのである。

 私たちはこの快適な経済マシーンの社会を拡張しつづけるべきなのか、それとも不快で不便も多いかもれないが、人づき合いがあり、顔のある助け合いの社会に戻ってゆくべきなのか。ホームレスや孤独死、ワーキングプア、ネットカフェ難民、医療難民、これらの人たちはこの経済マシーン社会から弾き出されて、この回転木馬の酷さや壮絶さをふり落とされたところからながめてしまった人たちである。『ホームレス中学生』の田村裕も同じような光景を見て、そしてこの本やドラマを見た人もその視点を思いがけず垣間見てしまったことになる。

 経済マシーンの便利で寂しい国は、どこまで弾き飛ばされた人たちを踏みつづけるのだろうか。

コメント

近所づきあいで生きづらさを感じるのは?

近所付き合いのある環境は一見人情味があるように思えますが、そうした地域は、同時に「至らない者に対して大変厳しい」世界だと思います。私もうえしんさんと同罪ですが、こうした世界で生きづらさを感じるのは、結婚もせず子供も居ない私たちのような人間ではないでしょうか?近所付き合いが厳しいために、「あいつは、いい年をして結婚もせずぶらぶらしていると噂になっている」と言われて、後ろ指を指されるはめにあうでしょう。

結局は「タダほど高いものはない」のであって、所謂「父親福祉」などはその最たるでしょう。家族に生活費の面倒を見てもらえる代償として、意に反した見合い結婚をやらされる、親の言いなりにならなければならないとしたら、そのほうが余程苦痛だと思いますが?

alan_smitheeのおっしゃられるとおり、人情や助け合いのある社会は、ひたすら干渉や強制や、土足で人の心を踏みにじるようなうっとうしさがあるのはまちがいないと思います。

そして今日の日本人はそのようなうっとうしさを捨てて、カネで「放っておいてほしい自由」を買っているといえますね。他者との未分化の関係を、貨幣労働を買うことによって分断しているかのようですね。

このふたつの社会はやはり長短が極端といえますね。人情は助けられる一方、悲惨な過剰干渉がありますし、貨幣サービス社会は、お金がなければ、そのシステムからまったく弾かれてしまいますね。非干渉の社会は不安だから、ますます企業や政府の社会保障にすがるということになり、カネが必要となり、それらの対象からの不自由さは異常な強度へとはね上がっているように見受けられます。

日本人が選択したのはもちろん後者で、カネで貨幣労働や自由を買い、カネで保障を買う一方、カネがなければだれも助けてもくれないし、放っておかれる社会のほうですね。自由だけど孤立や孤独がはげしく人々を襲い、そして企業や政府、そしてカネの依存を、人情の干渉社会よりひどい無防備さで強めていると思います。

この貨幣サービス社会の強みをのばす一方で、やはりその短所や失敗面もしっかりと見つめて、直してゆくこと、改善してゆくことが必要なんじゃないかと思います。安易に人情の助け合いの社会に戻ろうとするのではなく、第三の道を探さなければならないということなんでしょうね。難しいことですけど。

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