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11 25
2022

神秘思想探究

非合理的なものの称揚――『聖なるもの』 オットー

      

 神の実在などをまったく感じたことのない私は、この本のふさわしい読者でないことはわかっていたので、この本を読むことは敬遠していた。古本祭りで安く売っていたので、宗教学の名著とよばれるものを読まずにすますわけにはいかず、思わず買ってしまった。

 宗教的畏怖心を詳細に論じた学術的な本であり、その言い得ぬ感情や情緒を言語化する手さばきはさすがに感嘆するものがあった。神秘的体験がいかに正当なものと感じられるのかという相互了解のくだりも、この言語能力のたまものという感じがする。

 まあ私は神の実在の畏怖や感情をほぼ抱かない人間なので、さいしょの懸念通りこの本は身を入れて読むことはできなかった。古い翻訳なので、もっと堅苦しくない新しい翻訳で読みたかった。

 私は神秘思想的な興味があり、それも言語をそぎおとした合一の方向に興味があり、べつに情緒的・感情的な畏怖心や実在感といったものを求めているのではない。言語と感情は無益なものであり、実在しないものであるという考えに傾いており、それはストア派の無情緒性・アパテイアと同じものであり、オットーはこの方向性を脱しようとしたものである。

 合理的精神がいきすぎて、非合理精神を称揚しようとする動きは、フロイトやバタイユやニーチェのような流れにもあらわれていた。オットーのこの書もそのような流れの一環に思える。

 オットーは理性でも理解できず、把握できないが、感情によって経験されるというそれを称揚しようとした。この見えない、存在しない神は神秘思想の中心テーマであるが、私はそこに宗教的畏怖心を収めるべきではないと思う。

 宗教的畏怖心は、「私は無である、あなたがすべてである」といった思いをもよわせる。それは神の偉大さや畏怖をたたえたものだと解釈される。私はこれはエックハルトを読んでいて思ったのだが、自分や時間の悩みや苦しみを放り捨てて、神にすべてをゆだねることは、つまり自分の悩み苦しみを放り投げた先の平安が、神とよばれるのではないかと思った。

 あくまでも心理的平安が目的である。その平安にいたる仕掛け、装置が神と呼ばれるだけなのだ。自分の悩み苦しみを放り投げたら、私は平安になれる。神はその仕掛けの象徴やシンボルだ。宗教的合一というのは、その言い換えではないのか。心理的平安の装置が、神という概念によって仕掛けられているのである。

 宗教は神がいるのかいないのか、実在するのかという問題が表に立ちはだかっているのだが、じつのところ、ほんとうの目的とはこの心理的装置、仕掛けにあったのではないか。神との合一とよばれるものも、自分の悩み苦しみを放り捨てた先の安寧の境地のことをいうのではないか。神の実在が問題になりすぎれば、ほかの装飾や悩みでいっぱいになる、それだけのことではないのか。私はこのような目で合一を見直したいと思っている。

 なおオットーは『西と東の神秘主義』というエックハルトとシャンカラを比較した興味ある本を読んだことがあるが、残念ながら読解不能のさじを投げるものであった。





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11 07
2022

神秘思想探究

哲学者の神秘的な顔――『シュタイナー哲学入門』 高橋 巖

     

 私はシュタイナーの想像的な超感覚的世界を否定的にみているのだが、この本ではドイツの近代思想史をこと細やかにのべているので、手を伸ばしてみた。フィヒテ、カント、ヘーゲルをへて、ゲーテ、ブレンターノまでとりあげており、ドイツ近代思想史の名のほうがふさわしい本である。

 ドイツ近代思想にはもっと宗教的な、神秘思想的な、オカルト的な動機や命脈がみゃくみゃくとつづいていたのだということを、哲学論理の中に入りこんで解明してみせる。哲学は科学的、または中立的に語っていると思われるのだが、根底やその目的には宗教的なものがあるのではないか、それなくして哲学知の目的もないのではないかと見せてくれる本である。

 ヘーゲルは若くして宇宙の無限と同一化するような体験をしており、その心情を封印して、哲学論理に全霊をかたむけた。ヘーゲルは魂が自分が思考しているのではなくて、宇宙が魂の中で思考しているのだといったくらいなのだから。宇宙思考である。

 これはフォイエルバッハに知性の至上主義であって、その崇拝を神に放りこんだのだと批判されているのだけど。ヘーゲルにとって知性が神である。

 デカルトは思考が存在の根拠だといったのだが、フィヒテは存在も夢だし、表象も夢だし、宇宙全体が夢だという。デカルトの言葉は、フィヒテにとっては「私は夢を見る。ゆえに私は存在する」になる。

 神秘思想もおなじ立場である。思考は実在しないものであって、その実在しない思考が「私」という虚構物をつくる。「私」というのは思考がつくるマガイモノであって、夢のように実在しないものである。ただ実在するものは意識だけであって、それを無限意識や普遍意識、真我であるというのが、インド寄りの神秘思想である。

 フィヒテは自分自身を定立することのできる存在にまで人間を進化させる、それが大宇宙の目的だったのだととなえる。宇宙には宇宙人間がいて、その自我を定立したものがこの世界、この宇宙なのだというのである。

 それは無意識であった神が自分自身を意識しようとするために、客観的な目をもつために宇宙を流出させたのだという流出説と重なってくる。プロティノスやインドの神秘思想と同じものである。

 ゲーテは、哲学者が悪魔と見なした感性的世界の叙述にひたすら没頭したのだと語られる。ブレンターノはフッサールの着想の元となった哲学者として知られているが、ひじょうに宗教的・霊的なものをめざしていた存在であることを知った。

 こんにち哲学というものは、宗教や神秘主義的なものからまったく距離をおき、中立的、科学的なものを思われているのだが、ドイツの大哲学者といわれる人たちもずいぶん宗教的であったいうことがのぞける本である。それなくして根底や目的がない上辺だけを見ることになるのではないだろうか。

 ドイツのロマン主義あたりは、ハイネの『ドイツ古典哲学の本質』がひじょうにわかりやすかったことを思いだした。





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10 28
2022

神秘思想探究

期待に届かず――『東西思想の根底にあるもの』 玉城 康四郎

    

 仮題『セラピーとしての神秘思想家入門』という本を書いていますので、読書にあてる時間もそいで、創作のほうに集中しております。カールソン、クリシュナムルティ、マハラジ、ラジニーシ、シレジウスの章を書き上げて、あとはヨーガ・ヴァーシシュタの章にとりかかろうとしています。自分の中で考えが整理されて、自分がいちばん納得されたというかたちになっております。

 さて『東西思想の根底にあるもの』という本は、ブッダとパウロに共通点をみつけて、宗教思想の比較思想に伸ばした期待できるものであったのだが、あまり私の期待を満たしてくれる本ではなかったようだ。

 ユングの分析心理学、大脳生理学の知見にまで手をのばした章が私にはよけいなものに思えた。キリスト教思想、西洋哲学との比較思想ならもっと私の期待を満足させたと思う。ブッダの思想を西洋思想の中に見出すという内容なら、おおいに私の期待にそったものになったと思う。ライプニッツやスピノザ、シェリングに見出したとかね。キリスト教思想でもよかったのだが。

 悟りの状態のことをどうやら「全人格的思惟」と名づけているようだが、思惟であったら初歩と根本からまちがっていると思うのだが、これはなんだろうか。

 これらの論文は『現代思想』や『エピステーメー』といった現代思想誌に載せられたもののようだ。比較思想は現代思想のテーマとなりえた時期があったようである。現代西洋文明の危機には東洋宗教の復権が必要であるといった意気込みがあるような文体である。

 残念ながら、私には井筒俊彦には届かなかったように思う。







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プロフィール

うえしん

Author:うえしん
世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。神秘思想、仏教、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

Kindle本、2冊発売中です。

神秘思想セラピー、おすすめの記事


神秘思想は怪しくて、オカルトだというイメージがあると思う。

だが、それは聖典や名著と呼ばれる本を読んだことがないだけである。

神秘思想は、言葉や思考でつくる世界のフィクション性や非実在性を悟ることである。

その知識を得ることによって、パワフルなセラピーや癒しを得られる。

私たちを苦しめていた偽りの正体を知ることができるようになる。

おすすめの記事を紹介します。



「過去をなんども思い出す「反芻思考」をやめよ」

「心は実在しないと見なしたほうが、人生ラクになれる」

「人は存在しないものに泣いたり、悲しんだり、苦しんだりしている」

「言葉が実在しないことについて」

「思考の実在を解く方法――苦しみからの究極の解放」

「それは実在していない無ではないのか?」

「いやな思い出を思い出して叫びたくなることへの根本的解決策」

「うつ病と神経症は神秘思想で治せる」

「パニック障害と西洋的自我の失敗」

「仏教とは、思考システムを変えることである」

「人類の壮大なミステイク――言葉の非実在性」

「瞑想がめざすのは思考の「脱同一化」ということ」

「瞑想を理解するための10冊の本」

「神秘思想のおすすめ本11冊」

「アドヴァイタ・非二元論者まとめ」

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