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02 28
2015

セラピー・自己啓発

ミスタースポックは感情の喜びと苦しさ、どちらをもたらしたのか?

 ミスタースポックことレナード・ニモイ氏が亡くなられた。83歳。2015年2月27日。

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 1966年からテレビ放送された『宇宙大作戦』が深く長い人気を博したのは、ミスタースポックの理性的で感情を排したバルカン星人の役にあったと思う。

 それまでは理性的で合理的な人間が「文明的」で「近代的」な存在と思われていたが、このころを境にアメリカで「感情こそが自分らしさ」、「感情があることこそが人間らしさ」という考えの転換がおこりはじめていた。これを「感情革命」と呼ぶ向きもある。感情のないミスタースポックはその転換期に理性だけで生きる人間の非人間性やこっけいさをあぶりだして、人気が出た。

 このミスタースポックの理性的で感情のない役柄はおもにロボットやアンドロイドにひきつがれており、「愛を知らない」「泣くこと、感情を知らない」ロボットたちの悲劇性がうたわれた。「愛を知り、悲しみを知る存在こそが人間らしいことであり、人生のすばらしい出来事だ」といった主張が、鉄のような感情のないロボットとしての比較に用いられたのである。

 しかし感情こそが自分らしさであり、人生の醍醐味といった考え方は、感情に人生を翻弄される、感情を主体に好き嫌い、苦悩を背負い込んでしまう諸刃の剣の側面ももっているのではないかと思う。感情こそがすばらしいものだという考え方は感情にふりまわされる、感情に人生を明け渡してまう苦しい側面ももっている。

 感情を人生の主体にもってきたために、感情に人生を支配されてしまう壮絶な人生を選んでしまうことでもある。

 アメリカではセラピーや精神分析が大流行りになり、数々の自己啓発セミナーやセラピー理論がおこるようになった。うつ病の増加も、感情に人生の主役をゆずりわたした結果、おこるようになったことではないのか。ポジティブ心理学や悲観的な考え方を変える認知療法、禅・仏教の理論をとりいれたリチャード・カールソンやマインドフルネスといった技法も流行ることになった。感情を主体にしたためにその治癒の方法が必要となったのである。

  あたらしく出てきたセラピーで根本的に違うことは、悲しみや苦しみをもたらすのは「出来事」そのものではなくて、「思考」がつくりだすものであるという転換をもたらしたことである。

 人は苦しみがあれば出来事や他人がもたらしたものだから、それを変えなければならないと考える。だけど苦しみをもたらしたのは自分の思考、考え方であり、その考え方を変えれば苦しみはなくなる、または思考を捨てれば苦しみはないといった考え方を、あたらしいセラピーや自己啓発は運んできた。感情の原因は思考なのである。それによって感情のない安らかさというものにふたたび出会おうとしているのではないか。

 ミスタースポックによって感情のすばらしさ、人生の醍醐味をうたわれた一連の流れは、人生の彩りをもたらしのたのだが、同時に感情に翻弄される人生の苦しみももたらした。感情を主体にするのなら、感情に翻弄される人生も送らざるをえなくなる。感情のすばらしさには大きな代償がつきまとったということである。それから大きな学習の成果もつけくわえたというべきか、感情と思考の関係についての。

 認識のあり方も大きな転換をつくりだす契機になった。客観的世界を信じるあり方から、思考が感情をつくりだすという転換は、近代科学と宗教的世界観を分ける分水嶺である。人々はより主観的に唯心的に考えるようになる転機をこれからもたらすのだろうか。

 感情は人生のすばらしさ、彩りをもたらす祝福や幸福なのか。それともうつ病や人生の悲観をもたらす災厄や悲惨なのか。ミスタースポックあたりからはじまった「感情革命」はここにきて大きな曲がり角にさしかかろうとしているのかもしれない。わたしたちは感情を人生の喜びとして受け入れるのか、それとも人生の災厄として排斥しようとするのか。


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02 24
2015

セラピー・自己啓発

感情、思い込みを捨てる――『心のシンプルライフ』 ヒュー・プレイサー



 いろいろな感情や思い込みを捨てるための本で、瞑想だけでは納得しない、なぜ思考や感情を捨てなければならないか論理的に説明を聞きたい人のための本になるかな。

 捨てるものは、「心配すること」、「感情の凝り・固まり」、「惨めさ」、「わたし、わたし、わたし、オレ、オレ、オレ」、「内なる葛藤」、「エゴ」といったものになっている。

 感情や思い込みを捨てられないのはそれが正しい行いや対処法だと思っていたり、また批判や苦情や恨みを後生大事にすることが健康と自由につながると思い込んでいるのだろう。

 逆なのである。それが自分を苦しめていて、それを手放せば、自由と健康になることを知らないだけなのである。

「今、わたしの心が暗く沈んでいるとしたら、それはわたし自身が作り上げたものなのだ。

わたしは見たいものを見て、したいように反応している。これはすべて自分が選んだことなのだ」



 人はものごとを逆に捉えている。出来事がわたしを苦しめていて、その出来事を改善しないかぎり自分に幸福や安らぎは訪れないと考えている。だけどそういう捉え方自体が自分を苦しめる元で、思考や捉え方自体を変えること、捨て去ることが平安への道だということを知らないだけなのである。

 頭の中をパレードのようにさまざまな思考がわきあがり、いったりきたりする。その思いのひとつに飛び乗ると、「われ」を忘れて思考と空想の迷妄に迷い込む。それがネガティブで悲観的なものであると、私の心は暗く沈んだものになる。選択権と捨てる自由は自分にあるのである。

「時々わたしたちはある思いに気を引かれ、それをクチャクチャとかみ始めます。そしてとらわれてしまった時にわたしたちはまるごとの自分を見失うのです。

どんな思いであっても、それに気を奪われてしまうと、心を乱す感情をもたらす(怖れ、怒り、嫌悪、ためらい、焦り、嫉妬など)

このような感情をもたらす思いは、人生に悪影響を及ぼす愚かな判断の元となる。

パレードを見物しながら、それが通り過ぎるのをただ静かに見ているかぎり、何も問題は起きません。単なる傍観者の立場を捨て、パレードのキャラクターを追って走り出すからトラブルが起きるのです。



 これは瞑想での心の状態のことをいっている。さまざまな思考が行きかい、そのひとつの黒い思考に飛び乗れば、ぐちゃぐちゃな感情にかき乱される。もしどの思考にも飛び乗らないでいられたら――。

「静かに傍観しているうちに、心の奥にすでに安らかで幸せな自分があることに気づくかもしれません。それは光の湖、静穏の地。いつでも好きなときにあなたはその湖に身をひたし、その地をやさしく踏み、迎え入れてくれる温かさに身をゆだねることができるのです」



 さまざまな感情や思い込みを捨てることをすすめるこの本は瞑想そのものの本といっていいかもしれない。でも人は感情や思考にしがみつくことがよい行い、ゆいいつの正しい対処法と思っていたりする。この本はなぜその「正しい行い」を捨てなければならないかといった理由を論理的に説明してくれる本かな。瞑想の一助になる本。ただすこしぴんとこないエピソードも多かったかな。


いまここにいるわたしへ―新しい自分に気づく心のノートわたしの知らないわたしへ―自分を生きるためのノートからっぽ! 10分間瞑想が忙しいココロを楽にするなまけ者の3分間瞑想法自分を変える気づきの瞑想法【増補改訂版】


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02 20
2015

セラピー・自己啓発

前向きな心をとり戻したいときに――『積極的考え方の力』 ノーマン・V・ピール

【新訳】積極的考え方の力
ノーマン・V・ピール
ダイヤモンド社 (2012-12-03)


 落ち込んだりしたときになんども読み返すことの多い元気の素になるロングセラーである。1952年に2000万部のベストセラーとなり、いまだに読まれつづけられている名著である。


「目標を立て、常に最善を期待しなさい。けっして最悪を思ってはいけない。最悪はあなたの頭から捨てなさい。最悪が起きるという考えを脳裡に入れてはいけない。最悪の概念を抱かないようにしなさい。なぜなら、あなたが心のなかに入れたものはなんでもそこで成長しはじめるからである。それゆえ、最善を心に入れなさい」

「あなたの心に、あなた自身の成功の図を組み立てて、そして、それが消えることのないように、強く印象づけなさい。この図をねばり強くもちつづけなさい」

「エマースンは、「できると信じる人が勝つのである」と言ったが、この自信と信仰を実行しなさい」

「常に確信に満ちた考え方をし、これを支配的な習慣にするならば、どんなことが起きてきても、自分はそれに打ち勝つことのできる能力をもっているのだという、強い確信をもつようになる。自信が現実の力の増加をもたらすのである」

「私の見失っていた鍵は、信じる訓練のないこと、積極的に考える訓練のないことだということを悟ったのでした」

 「幸福の習慣を発展させれば、生活は酒宴の連続となるだろう。…習慣は作りあげることができるものであるから、したがって幸福も、私たち自身これを創造する力をもっているのである。…幸福な考えのリストを作って、日に数回それをあなたの心に思い浮かべるのである。…あなたがその日にもつであろうと思う幸福の経験の図を、あれこれと心に描いてごらんなさい。この想像のよろこびを味わいなさい」



 こういった積極的でポジティブな言葉をノーマン・V・ピールはなんども浴びせかける。そして、なんども心を空しくする瞑想をおこなうことをすすめる。


「毎日、心を空にすることを実行しなさい。…まず自分の心からすべての心配を吐き出して空にしているものと考えなさい。栓をあけて水を流すように、すべての苦労の考えが流れ出ているのを心に描いてみなさい。…次の言葉を繰り返しなさい。「神の助けを得て、私は今、私の心からすべての憂い、すべての心配、すべての不安感をあけて空にしております」」

「心を空にすることである。一日に数回は、心の中から憤怒、怨恨、失望、挫折、困惑をすべて取り去ってしまうのである。もしあなたが規則正しく、しばしば心を空にしないならば、これらの不幸な考え方は、なにか大きな爆発手段が必要となるまで蓄積していくだろう」




 この心を空しくする瞑想のすすめは文中に4~5回は出てきて、ピールはこの心を空っぽにするおこないをひじょうに重視していたことがわかる。不安や心配、ネガティブな心が積もってゆく恐れはそれほど強いものなのだろう。

 ピールは信仰の力をなんども説く。信仰をもてないものはどうやって翻訳すればいいのか悩むが、確信すること、信頼することの力、なにかにゆだねる、捨てることの力を意味すると解釈してもいいのだろうか。

 私はこの本のだいぶ古い版で手に入れたが、ページがほつれてきて外れる部分も出てきた。新訳も出たことだし、新しい版を手に入れるべきなのか。


積極的に考える―自信と勇気が出てくる12の法則人生が驚くほど逆転する思考法―夢をかなえる人・あきらめる人 (知的生きかた文庫)自分のための人生 三笠書房 電子書籍大きく考えることの魔術―あなたには無限の可能性があるマーフィー 人生は思うように変えられる―ここで無理と考えるか、考えないかで… (知的生きかた文庫)


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