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10 31
2014

右傾化再考

日本擁護論はどこに導くのか――『「反日韓国」に未来はない』 呉 善花

409402476X「反日韓国」に未来はない (小学館文庫)
呉 善花
小学館 2001-09

by G-Tools


 著作の欠点は、その著作の言い分や主張だけがのべられ、ほかからの批判や異なる視点が見えないことである。歴史修正主義のような本はとくにその点を警戒して読みたい。

 呉善花や黄文雄のような韓国・台湾出身者の主張はなぜ日本擁護にかたむくのかふしぎである。マイノリティは極端なマジョリティ同化にはたらくという説もあるが、オ・ソンファもそのような人なのだろうか。

 自虐史観批判の流れにわたしは関心もなかったのでかかわってこなかったから免疫はあまりないのだが、侵略史観によって国際社会が保たれてきたという戦後レジームがあるので、国粋主義や国家主義を勃興させるような史観は警戒されてとうぜんだろう。

 わたしはそういった国家の自尊心の復興のための史観というものはまるで興味はないのだが、この日本の右傾化はなにをもたらし、どのような理由で必要とされるのかといった興味から、第三者的な視点で歴史修正主義を見てみたいと思っている。というか、相対的な知識は知のたのしみの点で追求したのだけどね。

 この本を読んでの感想はなるほどであるといった程度か。呉善花は統治時代のおだやかな生活感覚から、国家教育されたような「侵略的で野蛮な民族的資質」が日本人にはなかったのではないかという視点をもっているようだ。

 解放運動がさかんであったら韓国全土に暴動が発生して強力な軍事支配が布かれ、市民生活は監視状態におかれ、自由は制限されていたはずだといっている。なにより市民感覚としては平穏な日常生活さえおくれれば、統治者が外国人だろうと自国人であろうとかまわないといった庶民感覚は納得するところである。為政者とかマスコミ、知識人だけが国家のどうのこうのとこだわるだけで、庶民は国家の統治者のクビや境界などにはげしくこだわるわけではない。この庶民感覚がマスコミの国家宣伝によって呑みこまれてゆくことが危険であると思っている。

 韓国は反日がアイデンティティになっているようで、近代国家の独立と分かちがたく日本統治がかかわっているからだろうか。呉善花は自分の反日感情がなくなると、日本人を鏡として見ていた自分のアイデンティティの崩壊を感じたそうである。日本への憎しみこそ民族のアイデンティティと起源となっていれば、反日感情はやむことはないだろう。

 韓国の反日感情は近代の侵略から生まれたのではなく、それ以前の中華思想の序列のころから生まれたものであるらしい。韓国にとって中国は文化の兄であり、日本は弟であるという意識がある。兄である中国やロシアの侵略は許せても、弟の悪行は許せないといった気持ちがあるようだ。日本は西欧基準の「先進/後進」の図式をもっているから、中華思想の序列はすでにない。

 東京裁判についてこんな一方的な裁判で敗戦国を裁くこと自体まちがっているといっている。相対的な視点をもつべきだといっている。読んでみたいのだけどね。

 基本的にわたしは国家や隣国感情などどうでもいい。国家に自分を重ねる見方も極力、排したい。庶民の平穏で制限のない自由な生活がおくれれば、国家がどうのこうのという話題に関心がない。それこそ呉善花のいっていた庶民感覚そのものだ。国家に必死にアイデンティティを賭ける人はどうしちゃったんだろうと思う。国家権力にちょくせつ利害があるばあいはともかく、庶民は火の粉が飛んでこない生活があれば事足りる。

 歴史修正主義のような本を読むのは、国家に自尊心を賭ける人の増大を懸念するからである。日本という国家にどうして自分のアイデンティティを賭けようとするのか、なぜ国家の増強が自分の自尊心のことのように思えるのか、そういった疑念のほうが強い。この国民感情がおろかな道に陥らないかといった意味で、歴史修正主義の本を読んでみたいと思っている。


韓国併合への道 完全版 (文春新書 870)歴史再検証 日韓併合―韓民族を救った「日帝36年」の真実 (祥伝社黄金文庫)中国・韓国が死んでも教えない近現代史 (徳間文庫)さらば東京裁判史観―何が日本人の歴史観を歪めたのか (PHP文庫)英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄(祥伝社新書)


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10 29
2014

右傾化再考

わかりやすく読みやすい――『昭和史 1926-1945』 半藤 一利



 わかりやすさと読みやすさにおどろいた。名著といっていいのでしょうね。昭和の開戦にいたる歴史を知りたいのなら、まずはこの本を読むべきなのでしょうね。

 ただわかりやすさゆえになんのひっかかりもなく、書評は一文で終わってしまいそうな勢いになる恐れもある本である。批判や違った立場から見る客観的な見方もぜひつけ加えたいところである。

 この本はおもに軍部や天皇、国際情勢から見る開戦史、戦争史といったことになるのだろう。国のゆくえを決めたトップにおいてどのような交渉や思惑がはたらいたのかといった「決定にまでおける交渉史」がおもな場面になっている。この交渉や決定が違っていたら、どうなっていたか、戦争は防げていたのではないかといった歴史のイフを考えられるような視点から捉えられている。

 ここにはとうぜん国民の感情や状勢は大きくとりあげられることはないし、橋川文三のような右翼思想からの昭和史といった視点も欠けている。国民や庶民が後押ししていった戦争史といった視点がない。

 天皇側近・元老たちが「君側の奸」とよばれ、軍部に嫌われて、庶民にも過激派の行動をゆるすようになった経緯もくわしくはない。昭和史にいたる前日譚には庶民の貧窮とマルクス主義の勃興という流れがあったのだが、そのことにもふれられていない。軍部が暴走するにいたる背景といったものが、昭和史に限定されているだけに見えてこないといった面もあると思う。

 国民感情の熱狂と新聞のあおり方を時系列に描いた本に、前坂俊之の『太平洋戦争と新聞』(講談社学術文庫)という本があり、詳細すぎて読む込むことが少々難儀する本であるが、けっして庶民や新聞はだまされたのでも、反対していただけではなく、みずから加担していった側面も強いことがわかるようになっている。戦争のきっかけになった満州事変をいちばん煽っていたのは、新聞と国民である。

 『昭和史』はおもに暴走する軍部とそれに疑念を抱き、押しとどめようとする天皇といった場面が多く出てくる。しかし天皇は昭和のはじめから政治に口を出せないように追い込まれていたし、軍も政治に口出されないような体制が早くも生み出されている。その段階で戦争への道は決まっていたのかもしれない。

 イギリスやアメリカと敵対していった様子もわかりやすく記述されている。西欧がやっていた植民地侵略に手をのばそうとする日本と西欧は敵対するようになり、仲のよかった関係はどんどんこじれてゆき、日本は軍部を中心に意固地や戦闘状態になり、米英に制裁を加えられたといったかたちになるのだろうか。ソ連のスターリンの裏での暗躍もなかなか奇怪である。

 国際政治におけるパワーゲームの中で日本はどのように自ら首を絞めていったかがわかる昭和史になっているのかもしれない。

 昭和の戦争にいたったくわしい過程を知らない人はぜひこの本を手にとると、わかりやすい開戦史が目の前に開けてくる内容になっている。


太平洋戦争と新聞 (講談社学術文庫)昭和維新試論 (講談社学術文庫)それでも、日本人は「戦争」を選んだ重臣たちの昭和史 上 (文春学藝ライブラリー)昭和天皇独白録 (文春文庫)


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10 23
2014

右傾化再考

侮蔑はなぜ必要なのか?――『悪韓論』 室谷 克実

4106105160悪韓論 (新潮新書)
室谷 克実
新潮社 2013-04

by G-Tools


 書店にはダジャレでおちょくったような嫌韓本が山のようにならぶ。これはなんだということでお金をかけることすらもったいないと思う嫌韓本の一冊をブックオフで手に入れる。



 たくさん増えたはずの心理学者がこのような現象を分析する本だけを読みたいのだが、そういう本がまだ出ていないようでしかたなく嫌韓本を読むしかない。原因的にはなんなのだろう。経済大国凋落の補償か、韓流ブームへのコンプレックスなのか、相手国の反日思想の反感からなのか。

 本の内容はどれほど批判バイアスがかかった本なのか検証するほどの知識量がわたしにはないのだが、批判されることはそのまま日本へもとうぜん当てはまるブーメラン批判になるし、見下げる視点をもつ者はみずからの品性のなさと下劣さをさらすだけであると思う。

 批判は自分自身にいちばん当てはまることが多いので自身の下劣さにはね返ってくるし、だれかを見下し罵倒する人間が尊敬されたり品格を褒められることなどまずないと思うのだが、怒りに頭を燃やしている人間にはそれが見えない。

 ふしぎなことは対人個人では自己中や身勝手な人はまわりから批判されることがわかっているはずなのに、国家のことになるとなぜ自分勝手や自己利益に邁進することがはばかられることに思われないのかということである。貪欲と利己主義だけが国家に投影されるのはおかしな現象である。国家には他国や他人という関係がないのだろうか。

 高学歴競争や就職難、職業差別、自殺、売春など日本にも同じような病魔があるはずなのだが、韓国だけが批判される意味がわからない。他国を批判すれば、日本では問題が消滅して、問題が解決されるというのだろうか。批判すれば、とうぜん自国の問題にもはね返ってくる。なぜ自国を棚上げできると思うのだろうか。

 ウソつき大国、詐欺大国というあり方はさすがに異常に思えたが、このバイアスはどれほどかかっていて、冷静にはどの程度が事実なのかわからないのがこの本の欠点だ。

 韓国は「滅公奉私」で、もっとも大事なのは自分自身と家族、先祖と一族だと批判されているのだが、会社は「オーナーの私物」としか思っていないというあり方は批判されるべきものではなくて、「滅私奉公」で個人が滅ぼされる日本人にとってはうらやましい、学ぶべきものではないのか。

 基本的に批判したい、憎悪したいために書かれる本なんて正確さや客観性などまず信用も保証もされない本なので、冷静に疑わずに読むことができない。怒りや侮蔑に燃えるために読む本など、有益な情報などひとつもつかめないではないか。ものごとにはいい面もあるし、悪い面もある。善悪両方の面を冷静に見比べてどちらの傾向が強いかを見比べる視点をもたないと、そのことがらの良し悪しなど判断できない。一方的な視点の見方がいかに役立たないか。

 この本にはなぜ韓国をそんなに目の仇にするのかの理由を書いてくれていない。反日思想に激昂しているのか。それとも韓流文化や経済成長に嫉妬や劣等感をいだいているのか。あるいは民族的自尊心にすがるしか、もはや自尊心を満足させるものはないという自己の虚無感や劣等感がなせるものなのか。批判や蔑視はブーメランのように自分へと帰ってくるようにしか思えないのだが。

 すくなからずの人たちがこの嫌韓本のラッシュに日本人はこんなに下劣で品性のない国人だったのかと驚いていることだと思う。欧米との比較において劣等感から経済成長をめざした日本人はまだ謙虚で品性があった。いつからこのような侮蔑や罵倒で他国を貶めるような日本人が出現するようになったのだろう。

 ある程度の年齢のものなら違和感や不快感をいだく嫌韓本も、若い無垢な世代がこのようなシャワーをうけた十年、二十年後にどうなっているかということがもっと恐ろしいことではないだろうか。誇りある、名誉ある日本というのは、それをもち上げれば上げるほど、このような下劣な人間性も芽ばえてくるものではないのか。


▼岩波や中公の新書や学術書を読まないと韓国の実情なんて判断できないね。
先進国・韓国の憂鬱 (中公新書 2262)戦後韓国と日本文化――「倭色」禁止から「韓流」まで (岩波現代全書)徹底検証 韓国論の通説・俗説 日韓対立の感情vs.論理 (中公新書ラクレ)近代朝鮮と日本 (岩波新書)女たちの韓流――韓国ドラマを読み解く (岩波新書)


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「反戦」のメディア史―戦後日本における世論と輿論の拮抗 (SEKAISHISO SEMINAR) 昭和史の逆説(新潮新書)
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世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

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