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10 22
2014

右傾化再考

日本の膨張的自尊心が国際平和を壊してしまうことについて

 日本の自画自賛本が花盛りである。嫌韓嫌中本も山のように出ている。戦後の自虐史観を批判する本も力を増してきている。謙遜や謙虚を美徳とした品性のある日本人の風格は風前のともしびである。


アジアが今あるのは日本のお陰です―スリランカの人々が語る歴史に於ける日本の役割 (シリーズ日本人の誇り)日本はなぜアジアの国々から愛されるのかだから日本は世界から尊敬される (小学館新書)日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか (PHP新書)日本人だけが知らない 世界から絶賛される日本人


 これは経済大国の自負心が凋落してしまって、ふさぎがたい劣等感を糊塗しようとする切ない日本人の衝動であるのが丸わかりなのだが、劣等感の補償にとり憑かれた人にはみずからの無様さはあまり見えないようである。

 この自己礼賛心がポジティブなものに転嫁して、成長や向上に結びつくのなら、自画自尊はおおいにけっこうだろう。高い自尊心が現実の成果をもたらすのなら、批判されるいわれはないものだろう。しかし他国を蔑視することで保たれる自尊心などおおよそ日本の誇りとほど遠いものであるし、現実になんら業績も結果もない空自慢ばかりするのなら、だれにも信頼されることはないというものだろう。

 問題は日本の膨張的自尊心というものが侵略をうけた他国にとって過去の脅威の復活に思われることだろうし、民族的自尊心というのは、どうも戦後の国際平和主義の重しや結び目になっているということだ。

 日本が謝罪や謙譲な態度をとりつづけることが戦後平和体制の礎になっており、日本の膨張的自尊心はその氷面をつき破ってしまうバーターである関係が、戦後体制をかたちづくっているように見える。日本が謙遜であるかぎり、国際社会は平和であるという体制こそが戦後の国際体制なのではないか。

 日本の民族主義的勃興は、どうもドイツのナチズムと共通する国際社会のタブーであるようで、戦後国際社会はそれらの戦争犯罪がどれほどひどいものであったかという認識を共通することによって、戦後平和体制が維持されているようなところがあるようだ。だから日本の右傾化事象の中にたまにナチズム的関連の事柄が混じってくるし、欧米諸国の警戒心は、ナチズムのみではなく、日本の民族主義的勃興の動きも注視している。

 つまり日本の膨張的自尊心や民族主義的勃興は、戦後の国際平和体制をうち破ってしまう過去の災厄の封印魔所なのである。

 日本の民族的自尊心というのは一国の国内問題だけではなくて、国際平和体制を崩壊させてしまう蝶番なのである。戦後の国際平和はそれが外れることによってばらばらにほどけてしまい、だから国際社会は日本の自尊心に警戒している。

 戦後の国家はどこも自国内の民族的自尊心の勃興には警戒していることだろう。それが他国との紛争や障害に結びつく過去を経験しているからだろう。日本やドイツには過去の範例があるいじょう、よその国より警戒度が高く、国際平和の結び目になっている象徴ともいえる。

 国際社会が警戒しているのに、経済凋落にわれを忘れた日本人は民族的勃興を是が非でも達成したいかのようである。平和より一国の自尊心が大事だ、劣等感に押しつぶされるくらいなら他国や国際社会はどうなってもいいといった鼻息だ。

 日本は韓国や中国の謝罪やゆがんだ歴史観によって自尊心をめちゃくちゃにつぶされただとか、アメリカのGHQによって洗脳されただのといった歴史認識が花盛りなのだが、経済大国の自尊心に満ちあふれていたときにそんなことが問題視されただろうか。自尊心が凋落したのは、日本国内の経済事情によるものであって、他国が成敗を下したわけではないだろう。

 日本は国際平和の番人なのであって、卑屈な謙譲心によって自尊心を押しつぶされているわけではない。

 戦後の日本は自虐史観や欧米の劣等感のなかで、経済大国への成功を果たしたのであり、民族的自尊心の満足などなくとも成長と向上をもたらすことができた。謙虚であったり、不足を冷静に見ることができたからこそ可能であったことではないのか。

 自画自尊や他国蔑視に溺れる一国の自尊心をたてまつって、現実否認や楽観主義で、国家の成長や向上が見込めるだろうか。そのような自尊心は過去の迷妄や誤まった道に導いたのではないのか。高慢で放漫な目隠しのような自慢話をいっぱい集めて日本はどこに転がり落ちたいというのだろうか。


呆韓論 (産経セレクト)韓国人による恥韓論 (扶桑社新書)犯韓論 (幻冬舎ルネッサンス新書 こ-4-1)マンガ嫌韓流中国・韓国を本気で見捨て始めた世界: 各国で急拡大する嫌中・嫌韓の実態 (一般書)


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10 20
2014

右傾化再考

文芸評論家はどうも――『昭和精神史』 桶谷 秀昭

4167242044昭和精神史 (文春文庫)
桶谷 秀昭
文藝春秋 1996-04

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 文庫で700ページにおよぶ大著を読みながら思ったのは、文芸評論家は肌が合わないというか、イメージや感覚がどうもわたしにとっての明晰さをもたらさないということである。この文章、なにいってんだろと思う文脈に出会って、とちゅう飛ばし読みのようなページ繰りもおこないながら、敗戦の最終章が感慨深いもので終わった印象。

 文芸評論家が書いた精神史だからときに文芸論もはさみながら、歴史の「事実史」も追われる。昭和10年代に作家たちは『墨東綺譚』や『雪国』のような自閉的な作品を書いたのかといった章は興味あったが、わかったかのようなわからないような。前線の兵士は戦記物を好まず、美しい山水、日常の物語を好んだようだ。

 基本的にわたしが昭和の精神史に期待することは、明治末に煩悶に落ち込んだ青年たちがマルクス主義に出会い、その後にどうして右翼思想や日本回帰に流れていったのかという精神の内実に迫る書である。桶谷秀昭のこの精神史はその過程をふかく追ったわけではないので、わたしには不満足なものに思えたのだろう。

 冒頭に生田長江の大正末・昭和初期におこなった予言――日本的伝統回帰がおこって急転直下がおこるだろうといったような精神史があげられているのだが、わたしはこの過程にいちばん興味がある。

 外来思想の播種と収穫で捉え、明治末には自然主義と個人主義があった。昭和の初頭にはマルクス主義という播種があり、昭和7、8年ころから日本回帰という収穫がおこったという。日本回帰はマルクス主義と同じ本能の別のあらわれだというのである。こういった精神史をいちばん深く追究したいのである。

 厭世と過激な国家主義は樗牛において一枚のカードの表裏だという指摘がある。隠遁とテロリズムが結びつく、それは大正に明治国家が空洞化していたときに生まれたという。

 大著なのでいろいろな感慨を抱かなかったわけではないのだが、そういった幾箇所か抜き書きもしたいわけではないが、わたしのテーマとは焦点が合っていなかった書というしかない。

 なおこの作品は平成4年に毎日出版文化賞を受賞している。同じようなタイトルに竹山道雄の『昭和の精神史』という本があるが、これは圧倒的な名著だとわたしは思っている。


昭和精神史 戦後篇 (文春文庫)日本人の遺訓 (文春新書)昭和の精神史 (中公クラシックス)知識人―大正・昭和精神史断章 (20世紀の日本)昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)


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10 18
2014

レイライン・死と再生

レイラインの世界観を究めるための読書ガイド

 レイラインは太陽の季節の節目上のラインに寺社や山岳が位置するというふしぎな地図上のミステリーだが、地図上の謎をさぐるという楽しみもあるが、やはりその背後にある世界観・コスモロジーをさぐってこそ、レイラインのほんとうの意味が見えてくるものだと思う。

 古代の人々は地図上の符号から読みとることができるどんな世界観をもっていたのか。それはこんにちでもけっして滅んだわけではない世界観の根底を担っており、方々の季節の行事や痕跡にその世界観の片鱗をのこしているものだ。ぜひこの世界観を知ってほしくて、読書ガイドを編んでおきます。


4334033512神社の系譜 なぜそこにあるのか (光文社新書)
宮元 健次
光文社 2006-04-14

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 この本がこんにち手に入るもっとも基本的なレイラインの書になると思う。自然暦という名称をもちいているが。東京、京都、奈良、大阪、岡山、茨城など全国の寺社の自然暦を網羅している基本書。


4479830030大和の原像―知られざる古代太陽の道 (日本文化叢書 (3))
小川 光三
大和書房 1985-10

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 この本が三輪山から伊勢神宮までの「太陽の道」をみいだした基本書。73年出版。80年にはNHKの番組にもなっている。水谷慶二『知られざる古代』という本にまとめられている。


486204140Xレイラインハンター ~日本の地霊を探訪する~
内田 一成
アールズ出版 2010-04-21

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 こんにちレイラインの現代的な探索に長けている人の著書。


天照大神と前方後円墳の謎 (1983年) (ロッコウブックス)
大和 岩雄
六興出版 1983-06

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 この本こそレイライン(太陽方位)とその古代の世界観の深みまでふみこんだ決定的な書であると思う。一夜妻や神聖淫売といった性と太陽崇拝のつながりまで考察の対象にしている。大和岩雄はほかにも太陽信仰についての書も多い。


4098200767飛鳥とペルシア―死と再生の構図にみる (小学館創造選書 (76))
井本 英一
小学館 1984-06

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 ペルシャ・イラン研究者なのであるが、中東にある「死と再生の世界観」が、古代日本の世界観と共通することをあぶり出した驚きの書。なぜ死と再生の世界観が、太陽信仰と重なってくるのか。


4791761472不死と性の神話
吉田 敦彦
青土社 2004-10

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 神話学者なのであるが、性と豊穣の神話はなぜつながってくるのか。吉田敦彦は『豊穣と不死の神話』、『太陽の神話と祭り』など太陽信仰と豊穣のつながりの意味を示唆してくれる書物が多い。


4796700803エリアーデ著作集 第2巻 豊饒と再生
ミルチャ・エリアーデ 久米 博
せりか書房 1974-07

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 太陽信仰、性、死と再生の世界観のつながりを解きほぐしてくれる決定的な書。古代信仰とその世界観、心情といったものを主観的に理解させてくれる欠かせない本。この本なくして古代の世界観は理解できないとまでいいたい。エリアーデはほかに『大地・農耕・女性』、『太陽と天空神』といった書物もある。


4560081948遊女と天皇(新装版)
大和 岩雄
白水社 2012-01-18

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 なぜ古代に娼婦は神聖なもので神に近く、一夜妻や祭りの乱婚などがあったのか。性と豊穣の意味を考える書。


4309471439名著絵題 性風俗の日本史 (河出文庫)
フリードリヒ・S. クラウス 風俗原典研究会
河出書房新社 1988-11

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 日本において植物信仰と性器信仰はなぜつながってきたのか。明治40年に出たドイツ民俗学者による書。





 あとフレーザーとか吉野裕子、宮田登なども参考になると思う。

初版 金枝篇〈上〉 (ちくま学芸文庫)蛇 (講談社学術文庫)宮田登日本を語る〈10〉王権と日和見天と王とシャーマン―天に思いを馳せる支配者たち神と自然の景観論 信仰環境を読む (講談社学術文庫)


 レイラインの世界観とはなにかというと、大地と人間の性が同一化されている。まいとし冬に死ぬ太陽や世界の穀物は、ふたたびよみがえり、人間に豊穣を約束してくれなければならない。その再生の祈りや願いが、人間の性の放縦につながり、神聖化をもたらしたのである。

 太陽は一年の冬に死に、春によみがえらなければならない。その再生をもたらすのは、人間の性に重ねられた神々の交合である。大地も交合によって再生と豊穣をもたらすのである。

 大地に太陽の季節のふしめがライン上に位置づけられたのは、神々のしるしと再生を願う気持ちではなかったのか。レイラインは古代の人たちのそういった願いの痕跡をこんにちまで大地に刻んでいるのではないだろうか。



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悪韓論 (新潮新書) 昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)
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世の中を分析し、知る楽しみを追究しています。興味あるものは人文書全般。ビジネス書、労働論、社会学、現代思想、経済学、心理学、精神世界、歴史学。。 そのときの興味にしたがって考えています。

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